桜吹雪の舞う今日の良き日に、このように厳かに令和3年度滋賀大学入学式を挙行できますことは、滋賀大学にとって、大きな喜びであります。このコロナ禍の中で、変則的ではありますが、入学式を行うまでに至ったことは、Covid-19に対するわれわれ人間の英知と努力による勝利が近いことを表しています。本日はご列席頂けていませんが、これまでそれぞれの学生を支えてこられた保護者やご家族、ご友人、関係の方々に対しまして、その力強いご支援とご助力に敬意を表しますと共に、厚く御礼申し上げ、また心よりお祝い申し上げます。

 大学院教育学研究科専門職修士課程20名、経済学研究科博士前期課程22名、博士後期課程3名、データサイエンス研究科博士前期課程43名、博士後期課程3名、特別支援教育専攻科9名の皆さん、本日はご入学、ご進学、誠におめでとうございます。

 滋賀大学はあなた方を心から歓迎します。今日まであなた方を全力で支え続けてくださった保護者やご家族、友人たち、関係の方々に、厚い感謝を示していただくと共に、大いに喜びを分かち合ってください。

 この滋賀大学は、明治8年(1876年)創立の小学校教員伝習所、翌年には滋賀師範学校に名を改めますが、これと、大正11年(1922年)の彦根高等商業学校、いわゆる彦根高商の二つのルーツを持っています。師範学校は、子どもたちに基礎教育を施すための優秀な先生たちを育てることを目指し、未来を担う子ども達を大きく広く育てていくために、学校という共同体の中で、子どもたちに大きな夢を抱かせるような、素晴らしい先生を育成する目的でした。これが今も続く教育学部、教育学研究科の伝統です。その伝統の上に、3年前に教職大学院が発足しました。学校経営と教育実践に高度な専門性を備える教員を育成します。教職大学院は、博士後期課程を兵庫教育大学を拠点校とする連合大学院に加盟して、博士号も出すことができるようになりました。

 彦根高商は、第一次大戦後のわが国の発展を進めるために各県に一つ置かれた商業学校の一つです。中世から近代にかけて活躍した近江商人は、「三方よし」といわれる独特の商業道徳観を持ち、当時の流通革命を起こしたのです。滋賀大学経済学部及び経済学研究科はこのレガシーを受け継いでいます。とくに研究科は、研究者養成のリサーチコースに加えて、グローバルな視点と高度な専門能力を持つ経済人、すなわち「高度専門職業人」を養成するプロフェッショナルコースを置いています。

 この二つのルーツに加えて、5年前に我が国にとってエポックメーキングな日本初のデータサイエンス学部を開設し、2年前倒しでデータサイエンス研究科修士課程を設置し、さらにその翌年には博士後期課程も開設して、学部から博士まで一貫したデータサイエンティストの育成を行う体制が整っています。現代はSociety5.0と呼ばれ、ビッグデータ、ロボット、AI、IoTが社会の柱となっています。その中心は、社会のあらゆるところから生まれ、蓄積されるあらゆる種類のビッグデータです。データサイエンスは、そのビッグデータを収集、加工、管理し、分析し、その中から新しい価値を創造する学問です。データサイエンス研究科の皆さんには、これからの日本を牽引する中心的な役割を果たしていただかなくてはなりません。大いに期待しています。

 このような長い歴史と伝統と最先端科学が、また文系と理系が共存している大学が滋賀大学です。私は4年前に「イノベーション構想―きらきら輝く滋賀大学」を発表し、その中で5つの柱により滋賀大学を発展させていくことを目指しました。文理融合、グローバル化、研究する大学、初回の中の大学、そして行動力機動力のある大学の5つです。詳しくはホームページの学長室のバナーを開いてくだされば、出てきます。そこで私が目指したことの一つは、将来大きくはばたく能力を秘めた学生の皆さんに、できるだけ多様な可能性を提供することでした。さらに、昨年度のコロナ禍ではこれまでのような教育や研究はかないませんでしたが、いち早くオンライン授業を導入し、新しい大学教育体制の構築に踏み込んでいます。そこで、滋賀大学のニューノーマルとは何かを突き詰めて考えた結果、さらに滋賀大学を前進させるための方向を示す「未来創生『滋賀大学』構想」を発表しました。これもホームページに掲載されています。そこではデータサイエンスとリベラルアーツの二つの教育の強化を核に据えています。来年4月から新しい第4期の中期目標・計画期間に入り、滋賀大学はさらに展開を遂げて行きます。その主役は学生の皆さんです。そのことをまずは、心にとめておいてください。

 さて、皆さんは、これからそれぞれ教育学、経済学、データサイエンスを中心に学習、研究を行うわけですが、滋賀大学ではどの研究科に居ても、研究科間の垣根は低く、相互に関心のある科目を受講することができます。とくに経済学研究科ではデータサイエンス副専攻も可能となっています。こうして、滋賀大学は文理融合を進めている大学です。なぜ文理融合なのでしょうか。

 社会のあらゆる事象は、最初から文系の事象だ、理系の事象だと分けられてはいません。様々な事象が、文系の面を持つと同時に理系の側面を持っているのです。その最も典型的な分野が「環境」でしょう。例えば気候変動を考えようとすれば、単に炭酸ガスなどの温室効果ガスの量や地球全体に対する温度上昇を研究すれば解決するわけではありません。確かに化石燃料を燃やして出る炭酸ガスを減らすために、工場のエネルギー利用を電気に変えたり、自然エネルギーの利用に変えることは考えられます。しかし、そうしたエネルギーの変更は、石油や石炭、天然ガスなどの生産国の産業に大きな打撃を与え、また様々な製品の製造過程を根本的に変更しなければならず、時に生産者や一般住民の日常生活に壊滅的な打撃を与えることがありえます。それゆえ、環境問題を考える時は、理系の要素とともに、その環境の中で生活する人間のこと、つまり文系の要素も考えなければならないのです。

 現在のCovid-19、新型コロナウイルス感染症についても同じことが言えます。医学の立場から言えば、感染症を防ぐには、人の動きを止めればいい。簡単です。しかし、それは経済の観点からすれば、大きなマイナスです。こうして、医学的条件と経済的条件が真っ向から衝突します。文・理どちらかの要素だけで判断し決定することはできないのです。このような例はいくらでも思い当たるでしょう。

 皆さんがこれから研究されようとする分野でも、正解が約束されているものはありません。また、問題が何かも明らかではないかもしれません。解が見つかっても一つではないかもしれません。もしかすると、解があると判っていても、今までだれもそれを見つけていないかもしれません。例えばポアンカレ予想という数学の難問は、証明するのに100年かかりました。皆さんがこれからこの大学で学ぼうとするのは、答えがないかもしれない問題を考えることであり、答えがないということを悟ることであり、また、一体問題は何か、を考えることです。一言でいえば、研究とは、自分で考えて問題を導き出し、それに対して自分独自の深い考察を通じて、適切な解を導く過程です。そこでは、自分がこれまで習得してきた内容を基礎に、研究科教員の指導を受けつつ、自らのオリジナルな考察と検討により、新しいものを導き出すことです。研究はちょうど山の頂上のケルンを積むことに似ているといわれます。これまで登頂に成功した人が一つずつ積んだ石の上に、自分の石を新しく置いていく、地道ながら、新しさを積み上げる作業です。

 それでは、新しい石を一つ積むのには、何が必要でしょうか。それは強い好奇心とあくなき探究心です。皆さんがこれから研究する課題には、どこに正解があるかわかりません。また正解があるかどうかもわからないことが多いのです。それゆえ、研究対象のみならず、周辺の関連する様々なことに目を向け、耳をそばだて、自分の判断や洞察力を磨いていかなければなりません。チャレンジ精神です。その中から、最も適切な解を見つける、あるいは、その解にたどり着く最も合理的な道を探っていきます。それゆえ、多様で柔軟な見方や考え方が不可欠です。問題を考え始めたら、表から裏から、右から左から、上から下から、最も合理的で妥当で解が見つかるまで、あきらめずに考え抜いてください。正解がない場合であっても、これ以上の適切な解がないというところまで、迫ってください。研究は、長いトンネルをくぐっているようなものです。その先には、素晴らしい論文の完成があります。明るい出口にたどり着くまでの暗闇の中の手探りを、感覚を、苦労を、悩みを、どうか楽しみながら、研究に没頭してください。

 さらに強調したいのは、皆さんには研究の上でグローバルな視野も持っていただきたいということです。現代は多様性Diversityの世界です。Diversityには、性別、人種、宗教、国籍、職業、出身その他、まさに多様な意味がありますが、とりわけ多様性を肌で感じ、その意味を理解するのは、外国及び外国人との接触です。外国的な要素と接触することにより、違いを見、感じ、わかると、その違いが研究の新しい糧になります。研究上、外国に行く機会もあると思いますし、また外国に行かなくても、外国の研究者の論文を読むことで、今まで遭遇したことのない要素に出遭います。それは自分の中の価値観に新しい部分が付け加わり、知的財産が増えることを意味します。それは皆さんの研究の奥行きを広げることに繋がります。皆さんが潜在的に持っている大きな可能性を開花させてくれるのです。自分が気づかなかった能力を教えてくれるのです。違う人が自分と違うことを行っているのを見て、自分も考え直し、自分の潜在的な能力が開いていきます。そして、自分が予想もしていなかった新しい光が研究の中で見えてくるのです。

 研究はすればするほど奥が深く、入っていけばいくほど知的喜びも大きくなります。自分の好きな研究をして、可能性が広がり、楽しみが増える、こんな仕事は他にはありません。研究者になる方も、高度専門職業人として社会で活躍される方も、この滋賀大学での研究を大いに楽しんで、そして大いに産みの苦しみを味わってください。皆さんが1年後、2年後もしくは3年後に、素晴らしい研究成果を残して学位を取得されることを今から大いに期待しています。

 皆さんが、研究を通じて、琵琶湖に映える陽の光のように、きらきらと光り輝くことを期待しています。

 

2021年4月5日

滋賀大学長 位田隆一

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