桜の花も皆さんの卒業、修了を祝うかのように大きく咲き始めている今日の良き日に、このように二年ぶりに厳かに令和二年度滋賀大学卒業証書・学位記及び大学院学位記並びに専攻科修了証書授与式を挙行できますことは、滋賀大学にとって、この上ない喜びであります。とりわけ今年度はデータサイエンス学部から初めての学部卒業生及び博士前期課程修了生を送り出すこととなり、二重の喜びと誇りを感じます。本日はご列席がかないませんが、これまでそれぞれの学生を支えてこられた保護者やご家族、ご友人、関係の方々に対しまして、その力強いご支援とご助力に敬意を表しますと共に、厚く御礼申し上げ、お祝い申し上げます。

 教育学部239名及び経済学部501名、データサイエンス学部94名の卒業生の皆さん、大学院教育学研究科修士課程35名、専門職学位(教職大学院)課程16名および経済学研究科博士前期課程18名、博士号授与者1名及びデータサイエンス研究科博士前期課程23名の修了生及びの皆さん並びに特別支援教育専攻科8名の修了生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。入学、進学以来、また学位取得の決意以来、今日に至るまで、とりわけ新型コロナウイルス感染症の中を、日々努力し、自らを鼓舞し、また楽しんで、充実した大学生活を送ってきた皆さんに、心よりお祝い申し上げます。

 それにしても、この一年余りの皆さんの苦悩は限りなく大きいものであったことでしょう。学部卒業の皆さんは、3回生の最後から今日にいたるまで、前半は大学に出てくることもままならず、残る一年で計画していた勉学計画や、人によっては留学計画も、根本的に修正を余儀なくされたでしょう。また大学院研究科の皆さんは、図書館の使いづらい状況や指導を受ける手段の制限されていること、教員や研究室仲間との議論機会の不足等から、研究の停滞や遅れが著しかったことと思います。さらに、課外活動は有終の美を残すことが叶わず、また後輩たちに経験と絆をバトンタッチすることも容易ではなかったでしょう。さらには就職活動にも大きな支障をきたしていたことと思います。中には最愛の人との逢瀬も困難となって、別れに至った人もいるかもしれません。授業にも出られず、友達にも会えず、自分の家からも出るのさえはばかられるような日常に、精神的な不調を感じた人も少なくなかったでしょう。孤独感や不安を訴える人がいたことも知っています。幾人かの学生は、キャンパス外でしたが感染し、療養を余儀なくされました。これらの状況に対して、未知のウイルスであり、とるべき手が極めて限られていたとはいえ、大学としては本当に残念に思います。

 皆さんは、将来「新型コロナ世代」と呼ばれるようになるでしょう。それは、新型コロナで何もできなかったことを指すものではありません。人間にとって未知のウイルスとの戦争の中で、果敢に戦い、勝利を勝ち取る世代です。入学以来の3年間のいわば普通の大学生活の上に、苦悩の一年余りを過ごす中で、光を求めて、考え、立ち上がり、最終学年を充実したものにしようと、創意工夫を重ねた世代です。「コロナ」という言葉が意味している「光の冠」を冠った、輝かしい世代です。

 オンライン授業という、初めての経験もしました。これまでの特別な教室でのテレビモニターを通じた遠隔授業と違い、同時双方向型のオンライン授業では、それまでの大教室では遠くにあった教師の顔がすぐ目の前にあり、思い立った時にチャットで質問ができ、一対一の授業に等しいようなサイバー空間が作られました。オンデマンド授業でも、課題提出は大変であったかもしれませんが、これまでのように、大きな教室の後ろの方の席に座って、顔もはっきりとは見えないような先生の一方的な講義をなんとなく聞いていた状況から、すぐ目の前に先生が居て、自分に対して直接に語り掛けてくるような緊張感ができたことを思い起こしてみてください。

 私は、オンラインで行った学長サロンで、ある新入生が、大学に出てくることができないにもかかわらず複数の課外活動に所属して活動を楽しんでいることを知り、そのタフさに感心したことも思い出します。学問研究の世界でも、リアルな研究大会の折には限られていた参加者が、オンラインであればどこにいても参加できるために、爆発的に参加者が増え、議論が活発になった例も知っています。

 皆さんは、日本の、いやおそらく世界の大学教育の中で、一般的にオンライン授業を行うようになったパイオニアでもあったのです。コロナ禍の中から編み出される大学での新しい教育とは何なのか、ニューノーマルな生活様式の中での大学教育とは何なのか、皆さんは大学といっしょに考え、実験し、解を見出そうと努力してくださった、滋賀大学にとって恩人とも呼べる世代です。滋賀大学も、コロナ禍の教訓を新たなバネに変えて、未来を創生する大学に発展していこうとしています。その突破口を皆さんが開いてくれたのです。この機会に皆さんに心よりお礼申し上げたいと思います。

 こうした経験は、これから皆さんが大学を出て進んでいかれる道のなかで、自分の想像力imaginationと 創造力creativityが発揮できることを改めて確信するきっかけとなったはずです。がんじがらめの生活の中から、ほんのわずかな可能性を見出し、または創り出して、新しい明るい生活を大きく育てる、みなさんはそんな自分の力をこの1年余りで培い、発揮してこられました。大学や先生方はそうしたあなたたちの潜在的な未来創生力に少し手を貸したにすぎません。

 厚い雲の向こうには、きらきら輝く太陽があります。雲の切れ間から明るい太陽の光が差し込んでくるのを「天使のはしご」と言います。皆さんは、今その天使のはしごを登ろうとしているのです。

 教育学部を卒業する皆さんは、学校の先生になる方が多いと思います。子どもたちに、新型コロナとの闘いの中で皆さんが見出した天使のはしごのことを伝えて、苦しいことや難しいことがあった時の勇気と知恵の大切さを伝えてください。教員という職業は、未来世代を育てる仕事です。私は皆さんを「未来教師」と呼びます。皆さんがひとりひとりの子どもたちの可能性を見出し、能力を存分に伸ばし、未来の夢を描かせ、それを実現に導くからです。また、教員以外の道に進まれる人たちも少なくありません。そうした道に進まれる方は、それぞれが、滋賀大学教育学部で学んだことを基礎に、コロナ禍の苦悩の中で養った自分の道を自分で切り開く力を存分に発揮して、自信をもって自分の未来を築き上げ、実現してください。

 大学院教育学研究科修士課程を修了する皆さん、及び教職大学院を修了する皆さんには、さらに研究の道に進む方や高度の能力を持つ教員として学校現場につかれる方々も多いと思います。滋賀大学で積み上げた研究力、指導力、学校経営力を生かして、大いにご活躍ください。また専攻科終了の皆さんも、職場でより高度な支援教育に励んでいただくよう期待します。

 経済学部を卒業する皆さんは、企業に就職する方や公務員などの職に就かれる方が多いと思いますが、そのほかにも自分で起業したり、後継ぎとして実家の仕事を承継する人もあるかもしれません。皆さんが進む社会は、激動の時代にあります。既存の価値観や知識は役に立ちません。さまざまな障壁や苦労に遭遇されると思います。その時に発揮するべきは、大学で学んだ専門知です。いずれの道に進まれようと、このきらきら輝く滋賀大学で学び経験したこと、そしてとりわけコロナ禍での最終学年のことを思い出し、大学の学歌にあるように「無限の力を信じ」て、壁を打ち破ってください。それぞれの世界で、大いなる成功を祈ります。

 また経済学研究科博士前期課程を修了される皆さんは、留学を終えられる方、職場に戻られる方、新しい職業につかれようとする方など様々と思います。磨き上げた研究力で、次の課題に立ち向かってください。

 データサイエンス学部を卒業される皆さんは、Society5.0超スマート社会を牽引する、日本で初めての「データサイエンス学士」です。この分野で遅れていたわが国で、みなさんの力に対する期待は大変大きいのです。日常生活や産業、教育その他、社会のあらゆる分野でさまざまなデータが生まれ、蓄積されています。そのビッグデータを活用して、私たちの未来社会をいかにして一人一人が幸福な社会を作り上げるか、があなた方のこれからの責務です。この四年間、優秀な先生方の下で、PBL演習などを通じて社会の様々な生のデータを扱いつつ、習得してきた力を存分に発揮してください。コロナ禍の向こうの未来の光り輝く社会を切り開いていってください。

 また、データサイエンス研究科博士前期課程を修了される方々、多くは自分の職場に戻って現場での課題解決に果敢に取り組まれ、それぞれの職場の発展に貢献されることでしょう。また、進学される方はさらなる研究に邁進され、末は日本のトップデータサイエンティストに育っていかれることを期待しています。新たに就職される方も、日本初のデータサイエンス修士として、華々しい活躍を祈っています。

 最後に一つ、私からのお願いがあります。私はこの式辞の冒頭で、現在の状況を新型コロナとの戦争と表現しました。いま私たちは、様々な意味での戦争に直面しています。世界のあちこちで、内戦や騒擾が起こっています。国によっては、国民の弾圧のために武器が用いられています。しかし、そうした武器を用いた戦いのみが戦争ではありません。実は、現在の社会の特徴ともいうべきものが、武器を用いない戦争なのです。その中でも特に、差別との戦いです。新型コロナ禍でもそのことが明らかになってきました。患者さんや濃厚接触者に対する差別があちこちで聞かれます。そして、性差別や人種差別、障がい者差別は言うまでもなく、私たちの社会の中に他人と違うことを理由に、様々な差別があります。アフター・コロナの新しい社会を築き上げていくあなた方には、多様な人々が多様な価値観と生活様式の世界で、一人ひとりの人間を尊重し、他者との違いを価値と認めて、SDGs持続可能な発展目標に示されるように「だれ一人取り残されない社会」を実現していっていただきたいのです。

 この願いを皆さんにお伝えして、式辞といたします。

 

2021年3月26日

国立大学法人滋賀大学 学長

位 田 隆 一

メッセージ

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