みなさま、2021年、あけましておめでとうございます。

 今年こそ、私たち一人ひとりが、健康で幸せな一年を送ることができるよう、祈ります。

 

 昨年は、新型コロナウイルス感染症に振り回された一年でした。これまで行なってきた普通のことができなくなり、生活のあらゆる場面で変容が生じました。今や世界75億以上の人口のうち、感染者はすでに8500万人、死者も185万人に達しているとされます。発展途上国の統計が十分でないことから考えると、おそらく数字はもっと大きいでしょう。医療体制の崩壊も強く危惧されています。それだけではなくて、あらゆる経済活動に大きな支障が出て、我々の生活の基盤そのものが脅かされています。未曽有の危機といわれる由縁です。

 我々は、このような状況に対して、あらゆる手立てを用いて闘っています。とりわけ医療従事者の皆さまは、この一年、そしてまだなおこれからも、自らの感染の危険をも顧みず、感染の拡大を防ぎ、患者の命を救うために、力の限りを尽くしてくださっています。感謝の言葉しかありません。

 一方で、コロナ禍の下でも、時代は展開していきます。世界を見れば、コロナ禍を除いても、大きな変動がありました。英国のEU離脱による混乱も、およそ一年を経てようやく着地点にたどり着きそうです。それは新たなヨーロッパのはじまりでもあります。米国もトランプ政権からバイデン新政権へ移行がようやく緒に就きました。アメリカを自由と正義で分断から引き戻すことを祈ります。香港の民主化の動きもとうとう抑えられ始めてしまいました。自由と人権は生命にも等しいものです。我々に民主主義の価値を再確認させます。コロナ禍でやや後景に追いやられてしまった感があるのが、難民問題です。世界のあちこちで、未だ解決どころか、苦難の生活を強いられている人たちがいます。これこそは生命の権利に関わる重要課題です。気候変動問題もコロナ禍で埋没したかのように見えます。コロナ禍で工場の稼働が低迷し、産業界がペースダウンしてしまったことがかえって温暖化ガスの排出を抑える結果となっているのは、皮肉なことです。加えて、温暖化が進めば凍土や氷河が溶けて、未知のウイルスや菌が出現することが危惧されます。

 国内を見れば、菅新総理の下で新型コロナウイルスとの闘いを続けていますが、当初は何とか抑え込めたものの、今や日本の成功は昔話になりそうな状況です。経済活動と感染症対策のバランスは極めて難しい判断を要しますが、それは政府のみの判断ではなく、我々一人一人の判断と行動にかかっています。それにしても、ここでも感染者、濃厚接触者やその家族、コミュニティも含めて、差別や偏見の問題が生起しているのは極めて腹立たしいことで、日本社会の人権意識の深度も問われているのです。

 このように、実は新型コロナウイルスとの闘いと人権、自由、民主主義の闘いとの間には共通項があることが分かります。それは、人の生命の重要さです。人権も自由も、肉体的生命と共に精神的生命の問題でもあります。いま世界の目標はSDGsです、そしてその基本は「だれ一人取り残さない」世界です。すべての人が、健康のうちに自由で安寧な生活を享受する世界、世界の隅々に至るまで幸福に包まれた生活、これこそ我々が目指す世界です。新型コロナウイルスとの闘いはその一つなのです。

 こうした中で言えることは、我々がSociety5.0超スマート社会をまさに日々の生活の中で実感したことでしょう。大学におけるオンライン講義はもちろん、多くの職場で在宅リモートワークが行われました。ステイホームの状況の中で、インタ―ネットでの注文や販売が伸びました。テレビ番組でもリモート出演が多くなりました。何よりもCovid-19の感染状況がデータを基にして分析され、対策が練られました。他方で、情報やインターネットの活用がすぐにはなじまない、飲食業や接客業、そしてモノづくりの現場では、活動が停滞しました。しかるに、経済成長は明らかに滞っているのに、株価は上昇を続けました。安全保障でさえも、もはや軍事力よりもサイバー力が重要になってきています。国際関係から家庭の中まで、このSociety5.0には新しいコンセプトで臨む必要に迫られています。

 3密やソーシャルディスタンシングという言葉に表されるように、人と人の触れ合いが感染を拡大するとすれば、新しい人間関係を作る必要が出てきました。Society5.0や第4次産業革命では、ICTが生活のあらゆる場面に入りこんでおり、それを利用して、人と人の関係や生活そのものが新しい形態を編み出してきています。コロナ禍の中での新しい生活様式「ニュー・ノーマル」の形成です。我々は、これからの超スマート社会を、理念だけではなく、具体的に描き、構築して行かなければなりません。人間は常に新しい環境に適応していきます、その力があります。ふだん何気なく過ごしていたことやものの重要性に気づき、また困難の中から新たな道を見出していきます。暗闇の中から抜け出すためには、少しの時間と知恵と勇気が必要です。こうした努力と発見が新しい生活様式「ニュー・ノーマル」につながります。これまでは、便利な道具だと思っていたインターネットやA.I.を、単なる道具ではなくあたかも衣服や食事のように生活の一部として認識し、そのうえでわれわれがどのような社会を築いていくか、具体的な姿を描いていかなければならないのです。

 大学も例外ではありません。我々は、卒業式や入学式を中止したのみでなく、昨年前期の授業を原則としてオンラインに切り替えました。新入生の皆さんは、難関を突破して滋賀大学に入学したのに、一度も大学に登校しないままの数か月を過ごさざるを得ませんでした。授業をオンラインで受けることができたとしても、大学生活の大きな意義である友人関係を築くことができず、孤独を感じた学生も少なからずあります。オンライン授業は、例外的な措置であり、また元の授業形態に戻ると考えていたように思います。後期になって対面授業が復活しましたが、それでも、ハイブリッド型を含めて約7割に留まります。

 しかし、初めてのオンライン授業の経験の中で、「オンラインしかできない」のではなくて、オンラインには対面では得られない深い学びがあることに気づきました。仮にCovid-19が今年の早期にワクチンや治療薬が供給され、治療法が確立されるとしても、一度新しい教育形態を経験し、しかも「オンラインでこそ得られる深い学び」を経験した以上、授業の形態や方法はもはや元に戻ることはありません。オンライン授業を始めたおかげで、大津と彦根の2キャンパス制の弱点も克服するめども立ちました。同時に、人と人が直接触れ合う対面授業が、かけがえのない貴重な学びの場であることも再認識しました。また、制限のある中で、オンライン授業での教え方の工夫、市松模様の座席配置や握手に代わる腕タッチ、感染対策を採ったうえでの学生交流会、オンライン練習など、様々なアイデアが生まれ、それが新しい可能性をさらに生み出していきます。

 オンライン授業の利点も経験した我々は、オンラインか対面かの選択ではなく、どのようにそれらを組み合わせて、質の高い教育を保証できるかを考えていきます。我々はこれまで、そしてこれからも、経験し、工夫し、発明する、新たなかつこれまでよりも効果的な授業形態を採り入れていくことになります。そのことは、大学の存在そのもの、教育の意義自体も問い直すことになるでしょう。それゆえ、我々は今から、新しい滋賀大学とは何か、を考えていかなければなりません。

 幸い滋賀大学は、コロナ禍にもかかわらず、着実な発展を遂げてきています。この3月にはデータサイエンス学部が完成し初めての卒業生が、またデータサイエンス研究科修士課程の初めての修了生が出ます。同時にデータサイエンス研究科博士前期課程が定員40名に拡大します。改組した経済学部も新しい履修方式の下で最初の卒業生を送り出します。他方で、教職大学院が4月から拡充され、新たに授業実践力開発及びダイバーシティ教育の2コースを開設します。私が4年半前に提示した「滋賀大学イノベーション構想―きらきら輝く滋賀大学」、即ち、文理融合、グローバル化、研究する大学、社会の中の大学、そして行動力・機動力のある大学の5つの柱も、それぞれに成果が上がっていると言えます。この間の成果は、滋賀大学が誇るすべて教職員の方々の、大学を発展させ、きらきら輝かせようとする力強い努力に負っています。年頭に当たってあらためてこころよりの感謝と敬意を表します。

 しかし、我々はこれで満足するものであってはなりません。第4中期に向けて新たなビジョンが必要です。昨年9月に私から新しく「未来創生『滋賀大学』構想」を発表し、その実現に向けて、学内で説明と議論を始め、ステークホルダーの皆様方にも協力と支援をお願いしています。これは「滋賀大学イノベーション構想」をさらに一歩進めて、全学の教育体制を刷新しようとするものです。教育データサイエンスとビジネスデータサイエンスの2コースを未来創生連携教育課程として、これまでのデータサイエンスを軸とした文理融合をさらに進化させ、他方で、Society5.0時代の新しい教育体系として、STEAM教育を導入し、STEAM教育研究センターを設置して、各学部における専門科目と並ぶ副専門的な位置づけをもつ未来創生リベラルアーツ教育・滋賀大モデルを構築します。またソーシャル・アントレプレナーシップ・センターの開設により、理論と実践を掛け合わせる教育を展開します。この新構想によって、滋賀大学は最先端の新しい大学に脱皮します。

 滋賀大学の運営費交付金は、85国立大学中で75位前後です。ウイズコロナ・ポストコロナの時代に、この財政規模の小さな大学が、未来に向けて大きく羽ばたき、きらきら輝きを増していくには、新たな意欲と挑戦が必要です。この流動的な世界の中で、伝統とは、常に新しいものを取り入れ、咀嚼し、新しい息吹を与え続けるなかで継承され、発展していくものです。滋賀大学にはそれができる基盤があります。2021年は、第4中期に向けて、新しい息吹を与える重要な1年です。全学を挙げてこの作業に取り組んでいきましょう。

 

 新型コロナウイルスは、人間への挑戦であると同時に、それを克服するために人間の能力を最大限に発揮させてくれる機会でもあります。禍転じて福となす。今回の新型コロナウイルスとの闘いの教訓を生かすためにも、いまわれわれの行っている様々な行動をしっかりと記憶と記録に残し、この2021年は、みんなで、そして一人一人が、その能力を存分に発揮して、新たな未来に向けて、質の高いニュー・ノーマルな生活を、そして新しい滋賀大学を、実現していきましょう。そのためにこそ、皆さんの健康が第一です。どうぞ気をつけて、この一年を過ごしてください。このことを祈念して、年頭のご挨拶といたします。

メッセージ

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