後期の授業が始まって、約一か月がたちます。2回生以上の諸君にとっては大学が息を吹き返した、と感じているかもしれません。また新入生諸君にとっては、入学試験以来初めて滋賀大学のキャンパスに足を踏み入れることができて、ほっとしていることでしょう。 現在の全国各地域の感染状況の中で、後期授業は、特に教室のスペースや感染の危険回避策などで、すべてが対面授業とすることはできていません。学部により若干の差はあり、オンラインとの併用もありますが、滋賀大学全体でみれば約7割が対面授業に復帰しています。

 前期期間中にWeb学長サロンを開いた中で、オンライン授業は受けているが、孤独だ、せっかく大学に入っていろいろな友達を作ろうと思っていたのにそれができない、いろいろなことへの関心がわかない、など、心理的な悩みを話してくれる人たちもありました。登校禁止を解き、対面授業を復活させることでそうした悩みは、完全にではなくても、ある程度解決できることになります。大学全体に活気が戻ってきました。

 この一か月間、私は、後期が始まるにあたって特にメッセージを出しませんでした。春は、新型コロナウイルス感染症の拡大のために大学自体が危機を迎えるとの危惧があり、登校禁止とし全面的にオンライン授業に移行しました。その条件の中で、諸君の勉学の意欲をどのようにオンライン授業の中で満たすことができるのかを考え、オンライン授業を「新しい教育形態」として、新しい学び場としての大学を、教員のみではなく、学生諸君も積極的に作り上げていこうと呼びかけました。前期のこうした経験を、後期に入って対面が復活して、学生諸君がどのように感じるか、まずは自分自身で感じ、考えていただきたいと思ったのです。対面授業とオンライン授業の違い、そしてこれからもしばらくは続くコロナ禍の中で、大学の授業やキャンパス内外での学びはどうあるべきかについて、先入観なく考えてほしかったのです。

 さて、一か月がたって、皆さんは今どのような考えを持っているでしょうか。オンライン授業でバーチャルに顔を間近に見ていた先生たちの授業は、対面になった時に新鮮さがあったかと思います。同時に、大きな教室で距離のある中で先生と対することに戸惑いもあったことでしょう。密を避けるために席間を空けて着席することに違和感があったかもしれません。リアルタイムで双方向オンライン授業を受けた印象と対面の印象の違いはどうでしょうか。通信環境の条件が必ずしも整っていないこともあったため、すべての授業が同時双方向オンラインではなく、オンデマンド方式の場合も多かったと思います。中には読むべき書物や資料を指定しておいて、課題の提出を求めるだけのものもあったようです。諸君はオンライン授業であれば、どのような方式が最良であり、また最低限の条件についても考えたことと思います。オンライン方式の方が受講生からの質問や意見が多く出て、活発、積極的な授業になった、との教員の意見もあります。他方で、皆さんは頻繁な課題提出に大きな負担を感じてもいたでしょう。対面の方が楽だ、と考えた諸君もいたはずです。しかし、大学での教育は、講義1時間に対して予習1時間、復習1時間の計3時間をもって一つの授業と考えています。それこそが大学における「考える」ことを学ぶ授業です。その基本が戻ってきたことになります。もちろん教員としても、初めてのオンライン授業のための準備に多くの時間を費やし、課題提出を求めた以上は、それぞれへのフィードバックに気を配ってきました。これまでの対面授業では、お互いにややもすればそうした緊張関係が忘れられていたように思います。だからこそ、この一か月の対面授業で、皆さんには前期との違いをもう一度思い起こして、授業について、自分たちの勉強について、考え、評価してほしいのです。

 そのうえで、対面授業の復活に対して、このひと月を経験した皆さんは、前期授業との差を想い起こしつつ、積極的に授業に参加しなければなりません。単に大きな教室で、間隔を空けた席に座って授業を聴くだけが大学の講義ではありません。聴くだけなら、先生の書いた本や論文を読めばわかることです。先生に積極的に質問し意見を述べて、双方向のやり取りの中から授業の内容を深めていくことが皆さんの学びです。先生も、講義する際には、他の学者の書いた論文なども参照し、できるだけ最高の内容を盛り込もうとします。皆さんの質問や意見は、その内容を皆さんが 咀嚼し、さらに深めることになります。先生が予想しなかった質問や意見が皆さんから出るかもしれないのです。私自身も経験がありますが、思いもよらない質問が出てくると、一瞬たじろぐことがあります。その質問や意見を自分の中で反芻し、考えをまとめて、解答し説明を試みます。しかし、すぐに解答が思いつかない質問や意見もあるのです。それは持ち帰って次の時間に解説します。次の時間までにもう一度調べ直すのです。実はその作業が、研究のヒントになるケースも出てきます。私も、自分では当然だと思っていたことに対して受講生から異論が出て、それまでの自分の主張を修正するに至った経験があります。先生も考え直して、自説が間違ってなかったことを確認し、または自説を修正、補足することもあるのです。先生にそれを気づかせることができれば、それは皆さんが先生の研究の発展に貢献したことになります。

 したがって、授業の中でみんなの前で手を上げて質問し意見を述べようとする時、つまらない質問ではないか、とるに足らない意見ではないか、と躊躇したり恥ずかしがったりする必要はありません。もちろん皆さんは、授業を十分に理解する努力をし、疑問点や異論を考えたうえで、質問や意見を出さなければなりません。それだからこそ予習1時間、復習1時間が必要なので、そのような構えをしっかり持てば、つまらない質問や意見になるわけがありません。さらに、そうした質問や意見を教室で行うことによって、受講しているみんなと共有できるのです。それがきっかけになって、さらに他の受講生が突っ込んだ質問をすることになるでしょう。先生にとっても、そのような状況が生じることによって、単に一方的に講義するだけではなく、いつどのような質問がでてくるかもしれない緊張感を持ち、今まで以上に授業の内容を考え直す機会にもなります。大学での講義は、先生が自分の研究成果に基づいて話をすることが多いので、皆さんの質問や意見が、先生の説明の仕方をより良いものにし、また研究意欲をさらに掻き立てることにもなりえます。皆さん自身が、間接的にではあれ、学問の発展に大きく貢献するのです。

 こうしたやり取りの中で授業を受け、ゼミに参加し、課題やレポート、そして卒業論文を書くことが大学での学びです。そのために皆さんは大学に入っています。オンライン授業と対面授業の双方を受講する機会となったことで、コロナ禍をチャンスととらえましょう。

 忘れてはならないことは、コロナ禍で余儀なくされたこととはいえ、対面授業以外にオンライン授業をもたらしたことです。最先端のICT技術がしのぎを削るこの超スマート社会において、今後は、対面授業とオンライン授業を組み合わせて、双方のメリットを最大限に生かす「新しい教育」形態を構築していきます。滋賀大学でいえば、大津キャンパスと彦根キャンパスの物理的な距離が、オンラインでつながることにより、解消されることができるのです。教育学部の先生の講義が彦根の2学部に居ながら受講でき、また大津に居ながら経済学部の先生の講義が受けられる。そしてもちろん、バーチャルであっても学生同士の交流も容易になります。こうした学部の垣根を超えた教育研究を実現することは滋賀大学の年来の望みでした。それが叶うことになったのです。皆さんはそうした滋賀大学の新しい時代の第1期生だということです。

 新しい時代の滋賀大学は、未来を創生する大学に生まれ変わろうとしています。私は9月に「未来創生『滋賀大学』構想」を発表しました。皆さんは滋賀大学の新しい発展の真っ只中にいます。後期の授業は、皆さんとともに新しい教育の形を作る第1段階です。コロナの 禍を福となして、一緒に未来へ向かって跳び出しましょう。

2020年10月29日

滋賀大学長 位田隆一

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