教育学部246名及び経済学部598名の卒業生の皆さん、教育学研究科60名及び経済学研究科31名の修了生の皆さん並びに特別支援教育専攻科8名の修了生の皆さん、ご卒業、ご修了おめでとうございます。この日に至るまでの間、日々に精進し、自分の力を築き上げてきた皆さんに、滋賀大学を代表しまして心よりお祝い申し上げます。

 またこれまでこれら学生たちを支えてこられたご両親、ご家族やご友人、関係の方々のご支援とご協力に対しまして、敬意を表しますとともに、衷心より御礼申し上げます。

 今年度は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大の危険を防ぐため、卒業式を中止することにいたしました。幸い滋賀大学ではまだ感染が発生したわけではありませんし、滋賀県においても発症例が3月25日現在で5名と全国的にも少数であることから、卒業式を挙行することも検討いたしました。しかし、大学としては、こうした生命・健康への危険が発生しており、治療薬や方法がまだ十分に登場していない状況の中で、皆さんを含む大学構成員一人ひとりの健康を把握し確保することが極めて困難であり、感染のリスクを極力小さくするべきであると判断したことによります。卒業式を中止したことは誠に残念ですが、これによって、これから社会に出て活躍する皆さんには、健康に4月からの新しい生活を始めていただけることを祈念しています。

 皆さんが希望にあふれて入学してきた滋賀大学は、この4年の間に大きく変わり始めました。滋賀大学はいま、国立大学への大きな期待と、それゆえにSociety5.0と言われる現代社会への大学の参画や貢献の遅れに対する批判を受けて、大学全体が急速にイノベーションを進めています。その端緒は、言うまでもなくわが国初のデータサイエンス学部の新設ですが、それよりも前に入学された教育、経済両学部の皆さんも、新しい滋賀大学への脱皮の息吹を感じてきたと思います。滋賀大学3.0「きらきら輝く滋賀大学」の時代です。皆さんはその真っただ中で卒業、修了していきます。

 71年前に戦後のわが国の発展のために全国に新制大学が作られ、滋賀大学が誕生した時、わが滋賀大学は、滋賀の地にあって戦後の日本の発展と進化を進めていく中核的存在でした。そして、いままた滋賀大学はデータサイエンスと、それを中軸とする文理融合をもって、新しい社会Society5.0のフロントランナーになりました。ちょうど幕末期に先見の明をもって開国を決定した井伊直弼がそうであったように。その滋賀大学を卒業・修了していく皆さんは、まさにこれからの日本を、そして世界を見据えて、適切な判断とかじ取り役を果たすことが期待されているのです。

 これから皆さんの活躍する場は、多岐にわたっていることと思います。学校現場やビジネスの現場はもちろんのこと、一人で作品作りをしたり、研究の道に入ったり、家庭で未来の世代を生み一緒に育てていく役割を果たす方々もあるでしょう。そのそれぞれの道にむけて、皆さんは、この大学で知性を磨いてきました。仲間を作り、新しいものへの挑戦や、伝統の継承に使命を見出してきたことでしょう。また世界を見て、新しいビジネスや経済産業発展の可能性を感じた諸君や、豊かな日本と全く対極にある途上国の貧困や紛争による危機状況や、その中でも生き延び発展しようとする人々の存在を理解した人たちもいるでしょう。また滋賀の地で将来の世代を育てることに大きな意義を見出し、滋賀の発展を目指して地域に貢献することの重要性を見出した人たちもいることと思います。これから皆さんが身を投じるそれぞれの道で、滋賀大学で培ったすべてのことを基礎として、さらに大きな人間として成長していかれるよう、期待します。

 その未来への道において、皆さんに二つの「勇気」のことをお伝えしたいと思います。

 一つは、今の新型コロナウィルス感染症に関わります。この未知の新型ウィルスに対して、感染予防、感染拡大の防止、検査方法や治療薬発見、治療、国の政策と現場での対応、集会や催しの中止 ―その中にはこの卒業式もあります― や延期 ―東京オリンピックはその最大の例です― が検討され、判断・決定され、実施されてきました。そのいずれも、通常とは全く異なった、場合によってはそれぞれの歴史で初めての、決断・行動であったことでしょう。一つひとつの措置が生活にもたらす様々な影響、一人ひとりの熟慮した行動の必要、国境を越える感染への協力、感染症克服後の社会生活の再生、その力となる人々の意識と感情、歴史の教訓の思い起こし、人々に元気を与える音楽や芸術などの文化、社会の仕組みの立て直し等々、様々な措置や考慮には枚挙にいとまがありません。

 いま皆さんは通常の勉学に加えて、治療法のまだない未知のウィルスに対する健康の維持、回復への闘いにおいて、多くを学びまた体験しています。その中で皆さんが考え、解いていくことにより、さらに皆さんの未来が、いかなる変化や問題にも耐えうる強靭さ ―レジリエンスresilienceともいいます― を備えた未来となるのです。この新型コロナウィルス感染症に関する経験は、皆さんに、人の生命の尊さとその生命を救うために戦う勇気があり、それゆえに行動する力があることを新たに認識させたものです。これから皆さん一人ひとりがその勇気と行動力をもって、前に進んでいくことになります。

 もう一つは、私がフランス留学中に出会った恩師、シャルル・ショーモン先生の勇気のことです。

 私は1969年から70年の1年間フランスのナンシー大学に留学していました。ショーモン先生はその大学の国際法の教授でした。先生は、非常に優秀で、将来はパリ大学の国際法の教授になると評価されており、若くして国連総会へのフランス代表団の一員として、戦後すぐから1958年まで毎年のようにニューヨークに出かけていました。ところが、1958年に、まだ国連の総会が開会中であるにもかかわらず、先生は突然に代表団をやめてナンシーに帰ってきます。当時アジアやアフリカの植民地から独立して非常にたくさんの国が国連に入ってきます。そういう新興独立国の主張を聞いていると、自分がそれまで研究してきた国際法と随分違う。自分が理解してきた国際法や国際社会は、第二次大戦後の現実を見ると、ほんとうの国際社会や国際法ではない、気がつかれたのです。そこで、自分は恥ずかしくなってフランス代表団をやめてナンシーに帰ってきたということでした。

 そのときをきっかけに、ショーモン先生は、真の意味の国際法とそれに対する研究方法論を見出す新たな道に入って行かれました。もちろん、そのような先生にパリ大学教授への道はもはや残されていませんでした。現実を冷静に見て、自分を振り返って誤りに気付き、自分が正しいと判断した道に信念を曲げずに進んでいく。こう言葉で言うと簡単ですが、ショーモン先生のように将来を嘱望されていた人が、みずからの輝かしい将来を捨てても新しい国際法を考えるという勇気は、いかなる名誉や利益にも代えがたいものです。

 「君の前には道はなく、君がその道を作っていく」といいます。今日の卒業は、皆さん一人ひとりが、これまでに得た知識をもとに、自分の個性と能力を伸ばし、勇気とそれに基づく行動力をもって、きらきら輝く素晴らしい道を作っていく、そうした未来への出発点です。皆さん一人ひとりがそれぞれの築く道で、こうした勇気を大きく発揮されることを願ってやみません。このことをお伝えして、私からのメッセージといたします。

 

2020年3月26日

国立大学法人滋賀大学 学長

位 田 隆 一

メッセージ

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