新年おめでとうございます。

 皆さん、良い年末年始を過ごされたでしょうか。

 

 令和2年にはいりました。今年こそは世界が平和な世界に歩を進めることができるでしょうか。昨年は「混沌の時代」に入っていると申し上げました。過ぎ去った一年を振り返ると、混沌は一層深まったように思います。米国・北朝鮮関係、米中関係、日韓関係、Brexit、イラン情勢、さらには自然災害、人種・性・障がい者の差別、また温暖化の進行等々、さまざまな混沌の種があります。

 世界平和に貢献した大切な方々も彼岸に渡られました。緒方貞子さん、中村哲さんのお二人がとりわけ心に残ります。就中、緒方先生とは、先生がまだ助教授時代に初めてお会いし、その後も国連大学や国連学会等でご一緒していただけに、心に大きな穴がぽっかり空いた気持です。

 喜ばしい出来事もありました。我が国にとっては吉野彰さんのノーベル化学賞受賞がありました。旭化成という企業の研究者の受賞は、江崎玲於奈さん、田中紘一さんや中村修二さんに続く快挙です。学と民の境がいよいよ低く、また科学研究の社会的役割の大きさが顕著になってきていることを痛感します。他方で、スェーデンの高校生グレタ・トゥンベリさんによる気候変動ストライキの提唱やCOP24での熱気あふれる講演は、若者たちが、手をこまねいている大人を批判すると同時に、自分たちの未来を真剣に考え行動し始めていることを示しています。滋賀大学でも学生たちがそれぞれに国内又は海外で活動している例が増えてきました。特にSDGs関連の活動は極めて重要な意味と方向性を持っています。

 我が国に目を向けると、様々な政治課題が生じていますが、滋賀大学にとって重要なのは、やはりSociety5.0の一層の進展でしょう。自動車産業では様々な自動運転の試みが進み、安全安心な運転が目指されています。わがデータサイエンス学部がこれに重要な貢献をしようとしていることは言うまでもありません。そのほかにも多くのデータサイエンス・AI分野の利用例が現れています。データサイエンスの重要性がさらに増しているといえます。しかしそれは同時に、Society5.0の中で人間はどのような位置を占めるか、を考えなければならない時期に入っていることを意味しています。ビッグデータ、AI、ロボット、IoTを使った便利な生活が即幸福な生活であるとは限りません。いまやAIの倫理がクローズアップされ始めています。とりわけ個人の情報は、その重要性がますます大きくなり、それは便利さのみでなく、プライバシーの侵害の危険も生み、利用の仕方によっては人間の生命の根源にも迫るものになっています。Society5.0の中で人間がどのように生きていくかを問い直す時が来ているのです。

 ひるがえって、大学にとって、今年はどのような方向に進むべきなのでしょうか。

 文部科学省は、2019年6月に国立大学改革方針を出し、7つの方向性を示しました。即ち、1.徹底的な教育改革、2.世界の「知」をリードするイノベーションハブ、3.世界・社会との高度で多様な頭脳循環、4.地域の中核として高度な知の提供、5.強靭なガバナンス、6.多様で柔軟なネットワーク、7.国立大学の適正な規模、の7つです。そしてこれを実現に移すべく、各大学との徹底対話を始めることとしています。滋賀大学も2月半ばに徹底対話の予定が組まれています。

 しかし、文科省による国立大学法人全体のあり方の流れを見ると、第2中期におけるミッションの再定義、第3中期における3つの重点支援枠組、また最近の指定国立大学制度、教員養成フラッグシップ大学などの特別な大学の種類分け、法人統合、評価に基づく運営費交付金の傾斜配分などは、国立大学の中の差別化を一層進め、究極的には、人分社会科学系・教員養成系の再編成にとどまらない、国立大学全体の再編成に進んでいます。その状況の中で必須なのは、それぞれの大学がどのように特徴や個性を伸ばしていくか、そして、そのために必要な方策は何か、ということに尽きます。

 その中で、滋賀大学では、2019年から「きらきら輝く滋賀大学ー第2フェーズ」が始まっています。2020年は第2フェーズの2年目です。そこには昨年1年間の大きな遺産があります。即ち、DS研究科修士課程開設と博士後期課程設置決定があり、また教育学研究科の兵庫教育大学連合大学院博士後期課程加入がありました。また講堂の耐震工事が始まり、春には竣工を見ます。年末には国立大学経営改革促進事業にも採択されました。それらを糧として、ここから新しい展開へ進みます。私は11月に学長として再任され、もう2年間の任期を果たすことになりました。これまで学長のリーダーシップの下で進めてきたガバナンス改革を継続・進展させます。その柱はもちろん「滋賀大学イノベーション構想」です。5つの柱の今年の進捗方向は次のように考えています。

 まず、文理融合については、中軸はやはりDS学部・研究科です。大学院DS研究科博士後期課程の設置により研究能力の向上を一層進めていきます。また、学部の完成年次に入るので、データサイエンス分野は全体として学部生400名、修士課程院生40名、博士後期課程院生3名となります。この状況の中で重要なのは、DS学部の発展・強化への対策です。今後10年間の計画を打ち立てつつ、将来の基盤固めをさらに進める必要があります。特に、准教授以上の専任教員35名、任期付き若手教員15名の計50名体制を描いていかなければなりません。そのうえで、教育、経済両学部・研究科とDS学部・研究科の融合体制の進化形を考案していきます。

 グローバル化については、国際交流機構で高度専門職員として副機構長を今月から任用しました。教授の称号を持ちつつ、本学の対外関係を統括してより積極的に進めていきます。また海外連携大学も拡大します。その手始めはポートランド州立大学で、学長裁量経費による共同研究の成果です。また、これまでにない新しい枠組みとして、米国の国際教育交流評議会CIEEの京都プログラムを今月から開始します。学生や教員の留学・在外研究支援も本格化します。このようにして、滋賀大学のグローバル化に新しい風が吹き込みます。

 次に、研究する大学についても、研究助成制度の強化に加えて、財政状況からみて、個人研究費配分の見直しを考えなければならない時期に来ていると思います。教員の個人業績評価の在り方が問われている時代です。研究とは常に新しいものを求めて探究する活動です。それをどのようにすれば一層成果の上がる方向に支援できるか、が課題となります。

 社会の中の大学については、産学公連携に関して、量的拡大と同時に質的拡大も進めます。前者は特にDS分野を軸とする連携拡大を継続するために、対応する教員の確保が課題です。後者の質的拡大は、香港の例に見る海外との連携の開拓や、嵯峨野観光鉄道や陶芸家との邂逅にみるような、経済連携の枠を広げる連携活動をこれからも試みていきます。学長裁量経費を活用したSDGsへの参画もこれに当てはまります。また文化事業(Shiga U Arte)も、教員中心の2度の事業から、学生・生徒による文化継承へ広げていきたく思います。

 最後に、行動力・機動力ある大学です。大学イノベーションの進展は、新しい業務の拡大につながっており、それゆえ、働き方改革とも相まって、従来の業務の見直し・軽減化を必要とします。そのために、これまでの職務形態の抜本的見直しを含め、職務組織・機能の効率化・強靭化をさらに検討し、進めていきます。それは同時に各職場の新しいあるべき姿を職員自身が描いていくことでもあります。

 イノベーション構想の以上の進捗の方向に加えて、今年の課題が2つあります。1つは、それぞれの学部・大学院の新しい姿です。

 まずは、教育・経済両学部の新しい姿が見えるようにしていきます。教育学部において重要な事実があります。少子化の傾向が加速していることです。年間の出生数が昨年度は80万人台へ突入しました。その子供たちが6年後には小学校に入学します。この調子では、10年後にはさらに少子化が進みます。こうした状況は教員養成系学部にとって正念場とも言えます。それは同時に、県や市町の教育委員会にも大きな条件が課せられていることになり、従来の計算の基礎が危ぶまれます。教育学部にとって、さらに突っ込んだ形で教育委員会との協議が不可欠になることと思われます。

 経済学部・研究科においても、新しい動きが見え始めています。とくにDS学部・研究科との連携で、経済学部の勢いが息を吹き返しそうに思われます。しかし、DS頼みになるわけにはいきません。経済学部では何を売りにするのか、が問われています。教員数が十分にあったころの全方位的な教育カリキュラム・プログラムではなく、今の状態から何をそぎ取っていくのか、が不可欠です。変化しつつある条件に対して、加算思考ではなく、減算思考で臨むことが求められます。

 DS学部・研究科においても新しい形を考えていく必要があります。DS学部が日本で初めてというキャッチコピーはすでに賞味期限が切れかかっています。全国的にDS系の学部が展開を始めている状況の下で、これから滋賀大学データサイエンス学部・研究科がどのように我が国のデータサイエンス教育及び研究を先導していくか、が問われます。本学DS学部・研究科の強みは、統計系と情報系をバランスよく集め、企業等との連携を進めていることにあります。この好条件をどう持続的に生かしていくか、的確な判断と政策が必要です。

 大学院の再編成も検討を始める必要があると思われます。DS研究科博士後期課程ができたことによって、この点がより現実性を帯びてきました。各研究科の独立的な運営か、総合研究科形態による大学院レベルでの学問の垣根を超えた融合か、将来を見据えて、今から議論を始めなければなりません。

 第2の課題は、大学全体の新しい姿への方向付けです。それには、一つには、滋賀大学の強みを伸ばすことであることはいうまでもありません。その中で、研究力、人材育成力、グローバル力、社会貢献力、行動力・機動力を一層強化しなければなりません。

 もう一つは、滋賀大学の3つの弱みを克服することです。第1は、2キャンパス制の問題です。この問題を近い将来に効果的に解決できなければ、滋賀大学の発展は限界を迎えるものと思います。第2は、「地方」「小規模」「国立」大学であることです。この弱みに対しては、地方性の克服策、小規模から中規模への、したがって、3学部+アルファへの転換が必要となるでしょう。また国公私の枠を超えた連携を目指す必要があります。これら二つの弱みは、中長期的なかつ重大な課題で、軽々に判断することは避けなければなりませんが、現在のように国立大学法人をとりまく状況が急速に変化しつつある中では、少なくとも今から検討を開始する準備が必要ではないかと考えます。3つ目の弱みは、財政基盤の小ささです。これを克服しなければ、ある程度の展開は可能であっても、大きな発展は望めません。運営費交付金の拡大は不可能のように思えますが、国立大学法人の再編成の中でこの条件を覆すことができないか、希望をもって進むべきでしょう。それ以外の財政力強化の策は、外部資金の拡大です。資金の量も大きくなければなりませんが、同時にそれは多様でかつ永続性のある資金でなければなりません。そしてそれを支える効率的な財政運営が不可欠です。以上の3つの大きな弱みを転換することが、将来の滋賀大学の存続と発展を左右することでしょう。強みをより強化するとともに、弱みの克服を目指すこと、この2方面作戦こそが滋賀大学のsustainabilityにつながります。

 

むすび

 きらきら輝く滋賀大学が、今と将来を見据えつつ、さらに前進していくためには、学生を含む全構成員の強い意識が原動力になります。令和2年は、きらきら輝く滋賀大学フェーズ2の最重要となる一年です。学生、教職員の一人一人がそのことを心にとめて、滋賀大学ワンチームで前進していきましょう。

 最後に、すべての教職員、学生の皆さんに健康で豊かな1年となることを願います。

 

 令和2年1月6日

滋賀大学学長 位田隆一

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