桜の花もほころびつつある今日の良き日に、このように厳かかつ盛大に平成30年度滋賀大学卒業証書・学位記及び大学院学位記並びに専攻科修了証書授与式を挙行できますことは、滋賀大学にとって、この上ない喜びであります。お忙しいところをご臨席賜っているご来賓の方々におかれましては、誠にありがとうございます。また、これまでそれぞれの学生を支えてこられた保護者やご家族、ご友人、関係の方々に対しまして、その力強いご支援とご助力に敬意を表しますと共に、厚く御礼申し上げ、お祝い申し上げます。

 教育学部248名及び経済学部583名の学士の皆さん、教育学研究科修士課程46名、同専門職修士課程22名、及び経済学研究科博士前期課程26名の修士の皆さん、経済学研究科博士後期課程5名の博士の皆さん並びに特別支援教育専攻科12名の修了生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。入学、進学以来、今日に至るまで、日々努力し、自らを作り上げてきた皆さんに、心よりお祝い申し上げます。

 あと少しすれば、今上天皇陛下のご退位と新しい天皇陛下のご即位の日が来ます。それに伴って、新しい元号もあと数日すれば発表されます。皆さんは、平成最後の卒業生、修了生です。この表現はこれからも皆さんについて回ります。

 「平成」とは、『史記』の中にある「内平外成(内平かに外成る)」、つまり「国の内外、天地とも平和が達成される」という希望が込められていました。「平成」に入った直後に、ベルリンの壁が崩壊して、戦後続いてきた冷戦が終結しました。まさに平和が成ると期待されていました。ところがそれは新しい不安定な時代の始まりでもありました。1990年には湾岸戦争がはじまり、ソ連が崩壊し、またバブルがはじけました。阪神淡路大震災が起こったのは24年前、あなた方の幾人かがその年に生まれています。この「世紀末」といわれた時代が続いた後、新世紀になっても、同時多発テロに始まるテロの脅威が「文明の衝突」という呼ばれ方をしました。一方、わが国では、いざなみ景気とよばれる戦後最長の好況期を迎えていましたし、さらに、今日のデータサイエンス学部につながることになるインターネットが席巻するようになっていました。ところが、平成23年、2011年には東日本大震災が発生し、戦後最大の国難と呼ばれる時代になりました。今なお出口が見えない復興への道が続いています。

 しかし、同時に皆さんは新しい元号の下で社会に出て行かれる最初の人たちです。もう少しすれば、○○最初の社会人と呼ばれるようになります。つまり、皆さんは、一つの時代の締めくくりとともに、新しい時代のフロントランナーとなるのです。

 歴史を振り返ってみれば、この滋賀大学は、そしてこの滋賀の地は幾度もフロントランナーの位置にあったといっても過言ではありません。幕末時代、この彦根の藩主で大老であった井伊掃部守直弼は、桜田門に散ったとはいえ、日本の開国を推し進めようとしたフロントランナーでした。先頭を切って国を前進させようとするに、命をも賭して政策を行う気概を持っていたのです。また滋賀の地から遠く離れて商売を広げていった近江商人たちも、現在でいう流通業や商社、繊維業など、近代日本の商業や産業の発達に大きく貢献しました。それは、現在の複式簿記やチェーン店展開に通じる流通革命を意味していました。今日の大企業の中にも近江商人の系譜を引くものは少なくありません。のちに高等商業学校が彦根に置かれ、彦根高商の名を全国にとどろかせたのも、そうした近江商人の活動に根差しています。経済学部の6学科構成、学生定員500名というのは、我が国の国立大学の経済学部の中で最大の学生数を誇ってきました。

 また教育学部のルーツである滋賀師範学校も、明治の開国直後の我が国の発展のために国民に教育を普及させるための教員となる人材を育成してきました。全国の総合大学の教育学部の中で、教員就職率の一、二を争っているのも、創設以来培ってきたそのスピリットによるものです。

 そして現代、第四次産業革命、Society5.0「超スマート社会」といわれるビッグデータ時代に、我が国初のデータサイエンス学部が創設され、同じく4月から新たに我が国初のデータサイエンスの大学院がおかれるのも、滋賀大学が社会の先端を行くフロントランナーとしての役割を常に意識している成果です。我々は、滋賀大学のこの新しい展開を、滋賀大学3.0「きらきら輝く滋賀大学」と称します。

 皆さんがフロントランナーとなるためには、皆さん方の強い意志と勇気に加えて、社会を見る透徹した眼が必要です。皆さんがこれから出ていこうとする世界は、既存のシステムが動揺し、新しいシステムの構築が模索されている世界です。国際社会を見ても、戦後70年近くにわたって構築されてきた国際協調主義が、戦前を思わせるような自国第一主義にとってかわられようとさえしています。そうした国家間の問題でなくとも、自分の一つ一つの判断と行動が、時に自分の周囲を超えて、世界全体に大きな影響を及ぼすことがあり得ます。とりわけこの超スマート社会では、常に自分自身と家族と地域と国と地球とがつながっていることを覚えておいてください。一人の女性の勇気ある行動が、世界中で“Me Too.”の運動となって、全世界の女性を立ち上がらせることに繋がったことを思い起こしてください。LGBTの人たちの人としての存在を認めようとする自然の動きが共感を呼んで拡がり、この多様性の世界をより大きく広げようとしていることも、皆さんの目の前で起きています。と同時にそれらの動きが人間としての尊厳の回復につながるにもかかわらず、なお、それを押し込めようとする逆方向の動きも残っています。

 あなた方がこれから進んでいく未来は、あなた方自身が事の正邪を見極めて、作り上げていかなければなりません。あなた方は、この滋賀大学での勉学・研究の期間に、その判断の基礎を身に着け、またその問題の奥にある人間を考えてきたはずです。これからは、ここで得た知識と能力を思う存分に発揮してください。

 教育学部、教育学研究科、特別支援教育専攻科を卒業、修了された方々は、その多くが教員になり、又は学校現場に戻っていかれるものと思います。今述べてきたことは、そのまま子供たちにも伝えてほしいことです。あなた方が作り上げる未来のそのまた未来は、あなた方の教え子になる子供たちの世界です。そこで人々がどのように幸せな生活を送るか、それこそがあなた方にかかっています。子供たちは、大変感受性が強いのです。先生の一言一言、一挙手一投足が、子どもたちの知識と判断と能力に関わってきます。素晴らしい子供たちを育ててください。期待しています。

 また教員にはならない方たちであっても、教育学部・研究科で培ってきた内容が、こどもという未来の大人を育てることにつながるものであったこと、すなわち学校以外でも通じるものをあなた方が身に着けたことを忘れないでください。

 経済学部及び経済学研究科を卒業、修了される皆さんにもお願いがあります。昨年私は卒業式の式辞で、近江商人の「三方よし」の思想に、「将来よし」を加えてほしいと伝えました。今年は皆さんに「人間よし」を考えてほしいと思います。経済活動は、確かに利益を最大にして、人間を幸福にすることが目的のはずですが、近ごろは利益の最大化そのものが目的となり、人間の幸せを視界から失っているように見えます。商売の結果が、それに関わる作り手、売り手、買い手、周囲の家族やコミュニティ、そして、広く全世界の一人一人の人々に幸せをもたらすものであるよう、常に心にとめていただきたいのです。

 式辞の最後に、今年も「平和」について一言述べたいと思います。国連で2015年にSDGs(Sustainable Development Goals)「持続可能な開発目標」が採択されました。SGDsは、持続可能な開発のための17のグローバル目標と169のターゲットからなり、それを2030年までに達成しようという、国連の目標です。その中心的スローガンは「Leave no one behind. 誰一人取り残さない。」というものです。これは地球環境保護のみでなく、発展を進めたのちに環境問題に取り組むことに気づいた先進国でも、環境を保護することの重要性は理解しつつも発展を進めていかなければならない発展途上国でも、一人一人の豊かで幸福な生活を保障しようという運動です。これは、一人一人の人の「平和」です。そこでは国家間の戦争も、また国内の内戦や騒擾も、もってのほかなのです。戦争のない世界というだけではなくて、一人一人が平穏で豊かな人間として尊厳を持って生活できることを世界中の一人一人の人に保障しようという運動なのです。滋賀大学も今年度から大学を上げてこれに取り組み始めました。皆さんも、一人一人がこの運動に直接、間接に参画されること、それを通じて、誰一人取り残されることのない平和な世界を建設する主役となられることを期待します。

 新しい時代のフロントランナーの皆さん、本日は本当におめでとうございます。改めて、皆さんを祝福いたします。

 

 平成31年3月26日

国立大学法人滋賀大学学長 位田隆一