年頭の挨拶をする位田学長

 新年おめでとうございます。

 現代は、既存のシステムが動揺し、新しいシステムの構築が模索されている「混沌の時代」といってよいでしょう。大学はそうした動揺しつつある世界の中でいかなる役割を果たすのか、考え直すことが求められていることを感じます。

 世界を見れば、もっとも大きな動揺は、国際協調主義から自国第一主義への変容でしょう。トランプ大統領のTPP不参加やINF条約離脱、国境の壁構築等、米国自身は昔の超大国の夢を復活しようとしているようにさえ見えます。Brexitも、これまで60年以上にわたって築き上げてきた戦後ヨーロッパの協調を揺さぶる大きな要因になることが危惧されます。こうして、これまでの多数国間の平和維持体制が揺らぎを生じかけており、余計な摩擦が生じるとともに、われわれの世界が第2次大戦後これまで培ってきた紛争解決能力を弱体化させ、あまつさえ、紛争の種を広げているとしか思えません。

 そうしたことを思うとき、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」というユネスコ懸賞の前文を想起せずにはいられません。

 日本を顧みても、昨年一年を象徴する「災」という漢字は、自然災害のみでなく、人の心から生じる災いをも示しています。台風では本学も、人的被害はないものの、校舎や設備、樹木などに被害が出ました。幸いにも滋賀県では大きな地震はありませんでしたが、復興途上の地方で再度の地震が発生し、被害が生じました。地震がいつどこで起こるかという予測は現在は不可能です。それであれば、災害が起こった時の対応策を常に準備しておくことが必要です。予防とともに、減災の考え方が不可欠なのです。災害を乗り越えることが重要です。

 他方で、公文書改ざんやハラスメント、統計調査の不備などの人的災害も忘れることができません。何よりもデータサイエンス(以下「DS」という)学部を持つ滋賀大学にとって、政府統計調査の問題は見逃せません。これらは、予防できるものです。にもかかわらず、何年間にもわたって行われてきた不正行為が明るみに出ています。自然災害と違って、「人の心の中に公正・正義の砦」を築いていれば、こうしたことは生じないはずです。

 本庶佑先生のノーベル賞受賞は本当に明るいニュースでした。とりわけ、受賞理由となった、多くのがん患者の命を救うがん免疫療法薬オプジーボは、その基底には、それまでと異なる独自の発想のもとに根気強い研究の積み重ねがあります。基礎研究がいかに大切であるか、を如実に示した例なのです。このことは、単に生命科学・医学分野の基礎研究に限らず、人文学・社会科学も含めてあらゆる分野に言えることです。研究は、常に新しい問題に、新しい発想で、新しい何かを積み上げる。そうした作業です。

 ところが、大学がこの地道な研究活動を続ける貴重な場であることさえ、いま揺らぎつつあります。国立大学法人に対して毎年新たな困難な状況が襲ってきます。運営費交付金の安定的な確保はもうはや夢のごとくになりつつあります。その上に、大学の機能強化努力に対する評価基準も不安定です。中期目標・計画の意味をなくするような状況さえ見え隠れします。滋賀大学の構成員が懸命の努力で勝ち取った「特筆すべき」業務運営状況という評価が、雲散霧消しているかのように見えます。さらに、法改正によって法人・大学統合の可能性が開かれました。また人事・給与マネージメント改革を通じて、年俸制と個人評価が全面的に導入されようとしています。加えて高等教育の負担軽減という名の下でも、大学運営に改革が求められています。

 こうした状況に抗するには、道は一つです。我々自身が新しい発想と、新しい手立てとを常に考えて、ともすれば荒波に翻弄されかねない滋賀大学を前進させなければなりません。いつも述べているように、「攻めの姿勢」を継続していきましょう。

 2017年以来「滋賀大学3.0」が始まっています。滋賀大学は1949年に新制大学として生まれました。「滋賀大学1.0」です。滋賀師範学校と彦根高等商業学校を母体として、半世紀余りも質の高い教員と我が国経済を担う人材をたゆむことなく輩出し、研究・教育・社会貢献に大きな成果を上げてきました。しかし、2004年に国立大学法人化によって、「滋賀大学2.0」の時代が到来しました。これは「強いられた2.0」というべきでしょう。多くの国立大学法人がこの2.0の中でもがいています。その中で、滋賀大学は我が国初のデータサイエンス学部の創設をきっかけに、自ら新しい時代を切り開き始めました。これが「滋賀大学3.0」です。

 2016年は3.0前夜でした。すなわち、DS教育研究センターの設置とDS学部創設準備で新しい風が吹き始めました。私はこの年の4月に学長に選ばれましたが、その選考基準となった「求められる学長像」には、その新しい風に乗って滋賀大学を運営するべきことが示されています。

 そして2017年4月に滋賀大学3.0が始まりました。DS学部を軸とする文理融合型大学としての滋賀大学の出発です。その直後の6月に私は「滋賀大学イノベーション構想:きらきら輝く滋賀大学」を発表しました。5本の柱からなるこの構想は、着実に実現しつつあります。その一端は、2017年度の業務運営の改善及び効率化において「特筆すべき」進捗状況との評価を受けたことに現れています。昨年2018年は大学が輝きを増してきた年です。イノベーション構想に示した諸策は、着実に実現されています。昨年末に開かれた自己点検報告会でも、参加者の中から滋賀大学がきらきら輝いていることがわかるとの発言がありました。

 そして本年2019年は、きらきら輝く滋賀大学の第2フェーズです。

 大学の組織・機構が変わります。これまでの教育・学生支援機構と研究推進機構に加えて、国際センターを発展させて国際交流機構、社会連携研究センターをDS分野も含む形にして産学公連携機構、そして情報分野を統括する情報機構の3つの機構を置きます。これら計5つの機構で滋賀大学の様々な事業の全体がカバーされます。

 大学院も整備されていきます。まず、DS研究科修士課程が4月から発足します。さらに同博士課程の設置申請も行うよう準備を進めています。これまで、日本初とはいえ、学部レベルの学生のみにとどまっていた滋賀大学は、学部、研究科修士課程及び博士課程と揃うことによって、名実ともに日本のDSの教育・研究拠点として体制が完成します。

 加えて、教育学研究科の兵庫教育大学連合学校教育学研究科(連合大学院)に加入します。これまで修士課程までにとどまっていたのが、教職大学院とはいえ、博士課程への道ができたことによって、一つ大きく前進したことになります。来年春のDS研究科博士課程が認められれば、3つの研究科がともに博士課程をそろえることになります。

 そこで、滋賀大学のイノベーションもさらなる展開を構想します。

 まず、文理融合型大学への展開については、DS学部・研究科の強化策が必要です。学部の3年目、修士課程の1年目、そして来年は博士課程の一年目と学生が増えてきます。博士課程まで全部完成すれば、学部生400名、修士課程40名、博士課程9名になる予定です。これらの学生を指導する教員数にしても、学生の勉学スペースにしても、不足します。さらに、DSと教育・経済の相互乗り入れの体制も強化する必要があります。教育、経済両学部・両研究科のカリキュラムにDS基礎教育を一層効果的に組み込む体制を整える必要があります。

 それに加えて、全学教養教育のイノベーションも考える時期に来ています。イノベーション構想で教育と経済両学部に求めた「10年後の体制」構想の中には、専門科目のみでなく全学共通教養科目も含まれます。これまでの教養教育を新しい時代の教養教育に変換していくには、ここでも新しい発想が必要です。それは単に人文、社会、自然といった既存の体系を超えて、新しい教養教育とは何か、現代の基礎的な知識と能力とはいかなるものであるべきか、を考えなければなりません。

 次に、グローバル化の展開については、前述の国際交流機構の設置によって、国際交流をより拡大・充実したものにします。特に本学学生の留学機会の拡大と研究交流の推進とが狙いです。イノベーション構想でも述べたように、。これまでのアジアを中心とした国際交流のネットワークをヨーロッパへ、さらにアラブ・アフリカへ拡大します。昨年には、フランスのレンヌ第1大学及びチュニジアのチュニス・える・マナール大学と連携協定を結びました。今年もさらに拡大する予定です。こうした他地域との交流のネットワークを広げて、共同研究や国際集会、研究者の招聘や渡航、また学生の語学研修や専門課程の留学の機会を増やし、滋賀大生が世界のどこでも活躍できる素地を提供すると同時に、円空の拡大と成果の世界への発信に努めます。加えて、これまでにない外国教育団体との提携も準備中です。滋賀大学が世界に飛躍するのです。

 第3の柱である研究する大学については、すでに一昨年から学長裁量経費によって様々な研究補助制度を創設しました。ただ、そうした新しい制度がいまだ教員の間に浸透していないようであり、制度の周知と活用の推進に取り組みます。特に国際シンポジウムの開催や外国人研究者招聘は以前に比べて財政的に容易になったはずです。

 加えて、新しく若手・中堅教員向けの研究力の向上のために、短期の在外研究助成を始めます。これまでのサバティカル制度の発展型です。

 また、社会の中の大学については、産学公連携機構を設置して、滋賀大学が全体として社会との連携に力を入れていることをアピールします。とりわけDS学部を軸として、いまや40件の協定と100件の共同研究等の連携は、現代社会におけるDSの重要性を如実に示すものであると同時に、単なる社会貢献ではなく、企業や自治体からのデータの教育への利活用に繋がっており、学生が、現実のデータを取り扱うことにより、データの価値をよく理解した上で、新しい価値創造や意思決定に導くことを可能にしています。

 さらに、新しい取り組みとして、国連の提唱しているSDGsへ参画します。すでに個別の教員やゼミ学生グループなどでSDGsに協賛した活動を行っているのですが、今後は滋賀大学全体として、SDGsに協力します。具体的な体制は早急に構築しますが、そのスローガンである「誰一人取り残さない(Leave no one behind.)」の精神は滋賀大学にとっても大きな意義を持ちます。教職員及び学生諸君の積極的な参加を呼びかけます。

 そして、行動力・機動力のある大学については、特に滋賀大学を土台で支える職員の方たちの活性化を図ります。教員のみならず職員も削減してきたので、職員に余裕がなく、特に外から大学を見る機会が少なくなっています。今後は、できるだけ職員の職務や関心の向上のために、研修制度の充実を図っていきます。働いていて楽しい滋賀大学にするのです。

 加えて、これまで学生を大学の様々な催しや事業に能動的主役として加えることが少なかったため、もっと学生を主役に据えた方策を取ります。すでに意見箱や学長サロン、さらに広報サポーターやカモンちゃん倶楽部などがありますが、これら以外にも、学生が主体的に参画できるような仕組みを考えて行きます。学生のエネルギーと感性を大学の現在と未来に反映するのです。「学生は大学のイノベーションの要」ということです。

 4月から始まる2019年度は、第3中期の4年目に入り、暫定評価の準備の年です。6年間の中期計画期間の実績評価は6年目が終わった時におこなわれるのは当然ですが、4年目までの成果についての暫定評価が実はより重要な意味を持ちます。目標と計画の達成度の整理と達成の見込みを正確・詳細に作り上げて、それが高い部分はさらに高く、遅れている部分は達成のための強化策を検討する必要があります。言い換えれば、イノベーション構想の実現とさらなるイノベーションへの準備期間でもあるのです。この暫定評価への準備作業を通じて、文理融合型大学への一層の進化を図るとともに、10年後の滋賀大学の姿を具体的に構想する機会でもあります。これこそ「滋賀大学4.0」となるものです。

 きらきら輝く新しい滋賀大学の今と、そして将来を見据えつつ、2019年が始まりました。今年は平成最後の年ですが、同時に新しい新しい時代の一年目でもあります。滋賀大学がさらに輝きを増すよう、さらなるイノベーションと発展の年にしましょう。

 最後に、すべての教職員、学生の皆さんにとって健康で豊かな1年となることを願います。

 

 平成31年1月7日

滋賀大学学長 位田隆一