満開の桜が咲き誇る今日の良き日に、平成30年度滋賀大学入学式を挙行できますことは、滋賀大学にとって、大きな喜びであります。お忙しいところをご臨席賜っている来賓の方々、誠にありがとうございます。また、これまで新入生一人一人を育て、支えてこられた保護者やご家族、ご友人、関係の方々に深く敬意を表しますと共に、衷心よりお祝い申し上げます。

 教育学部244名、経済学部485名、データサイエンス学部108名、教育学研究科59名、経済学研究科26名、特別支援教育専攻科11名の皆さん、ご入学・ご進学おめでとうございます。

 滋賀大学はあなた方を心から歓迎します。今日のあなた方のあるのは、ひとえにあなた方を支え続けてくれた保護者やご家族、友人たち、関係の方々のおかげです。厚い感謝の気持ちをもって、喜びを分かち合ってください。

 滋賀大学は、教育学部においては1875年の小学校教員伝習所に始まります。明治維新の日本が西洋の文明に追い付き追い越すため、国民にあまねく学校教育を施すことを目的に、「学制」を敷いて、小学校を設置すると共に、そこでの教員を育成し始めたのです。また経済学部においては、1922年の彦根高等商業学校、いわゆる彦根高商に始まります。当時の日本が国力を拡大していく中で、経済力を高めるために全国に商業学校を設置していった時代でした。第二次世界大戦後にこれら二つの学校を統合して教育学部と経済学部として設けられた滋賀大学も、一県一国立大学の政策により、全国どこにいても高等教育を受けることができるよう、設置されたものです。つまり滋賀大学は、その時々の時代に対応して、学校から学部・大学へと発展してきました。そして、昨年度からは、Society 5.0や第四次産業革命Industry 4.0と呼ばれる日本のさらなる発展のために、日本初のデータサイエンス学部という、時代の先端を切る新しい学部が誕生しました。このデータサイエンス学部は、滋賀大学の歴史の上で初めての理系の性格を持つ学部です。

 これまでの教育と経済の2本の柱の間に、横串を通すように、理系のデータサイエンス学部ができることで、文と理が相互乗り入れし、いわゆる文理融合型大学に脱皮しました。いま滋賀大学はきらきら輝き始めています。

 皆さんは、この滋賀大学へ入学また進学されるにあたって、大きな希望と意欲を抱いておられることと思います。滋賀大学の地理的位置は、きわめて特徴的です。関西、近畿地方の一県であることによって、西日本の学術・経済の中心近くに位置します。他方で、中部・北陸地方にも近く、中部経済圏の一部でもあります。そして滋賀県の真ん中には、日本最大の湖、マザーレイク琵琶湖が横たわり、比叡・比良・伊吹山系の懐にあって、自然の豊かな地域です。健康長寿日本一の県でもあります。こうした滋賀の位置ゆえに、皆さんは東西に開かれた環境の中で落ち着いて心豊かに勉学に研究に励むことができるのです。

 それでは、大学では何を学び、何を研究するのでしょうか。大学という存在は、社会の中の知的活動の一部です。大学で行う勉学や研究は、それ自体が社会の様々な課題と直結しています。もちろん、大学で得た知識や考え方、大学で行う研究が社会の具体的な問題の解決にすぐにつながるものばかりではありません。大学で行われる教育と研究は、社会の問題解決に必要な基礎的な研究、体系的な学習から、その時々の課題解決や提言、さらに学習としてのフィールドワークやケーススタディなど、社会と多様な関わり方を持っています。これから皆さんが学び、また研究する学問は、机上の空論であってはなりません。常に実際の社会との関係を考えつつ、社会の問題を応用問題として、その根底にある論理の筋道を理論として構築し、把握し、また活用するのです。学問の基礎は理論です。理論の裏付けのない解決や提言は、思いつきの解決にすぎません。他方で、理論のための理論は、価値がありません。理論は現実を理解し、解決し、予測する基盤です。現実を離れた理論はまさに空論です。同時に、いかなる学問も、社会や人間に与える影響、効果を常に考えながら行われなければなりません。

 例えば、『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判断力批判』の三つの書物をあらわした哲学者イマヌエル・カントは、観念論哲学の祖と言われています。彼の関心は、「我々は何を知りうるか」、「我々は何をなしうるか」、「我々は何を欲しうるか」という、現実の人間という存在に関する根本的な問いでした。しかし彼の哲学は、単なる形而上学に留まらず、後に「永遠平和のために」という世界平和のための現実的な政策提言のパンフレットを書いているのです。またノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典(おおすみよしのり)先生は、細胞の自食作用オートファジーという細胞の基礎的な研究をされてきましたが、この基礎科学があるからこそ、人間の病気や老化、悪性腫瘍の除去などに繋がっているのです。大隅先生は、ノーベル賞受賞記念講演で、「近年は(…)、科学者は、研究が即座に実際に応用できるという証拠を提示するよう求められます。私は、社会が、目的を重視した科学だけでなく、文化活動の中核としての科学を育むことを心より願っています。」と述べて、すぐに結果の出る応用科学のみではなく、基礎科学の重要性とそれが「文化」として社会の基盤につながることを強調されています。これは言い換えれば理論と応用が科学の両輪であることを指摘しておられるのです。

 また、最近に話題になっているCRISPR/Cas9というゲノム編集技術は、生物の存在の基礎となるゲノムの構造と遺伝子の作用に関わる基礎的な技術の一つなのですが、その応用が、例えば植物や動物を通常より大きくして食糧の増産に役立つほかに、人間の受精卵を操作して、いわゆるデザイナーベビーを作り出すこともでき、人間の生命を操作し、存在価値自体も揺るがしかねない技術でもあります。そこでは科学技術に対する我々一人一人の人間の価値観、生命観の揺らぎをも招来するものでもあります。この技術は、その応用の可能性が素晴らしいものであるだけに、それが人間に対して使われるときの影響を十分に省察しておかなければならないのです。

 このように、皆さんがこれから学び研究する様々な学問分野が、常に社会とのつながりがあること意識しておいていただきたいのです。

 大学自身も社会とのかかわりを求められています。大学は象牙の塔ではありません。滋賀大学はこれまで、教員養成という子供たちを育てる教師を育成することを通じて、また経済・経営学の観点で、社会の経済状況を考察し、時には現場に出てアドヴァイスを行うことを通じて、さらには社会連携研究センターや環境総合研究センターの活動を通じて社会に様々な貢献をしてきました。昨年度からはそれにデータサイエンス学部が加わることによって、特に公的機関や団体、企業などとの連携や共同研究などを通じて、現在の日本の発展への直接の貢献を果たしつつあります。この3月には、その上に、音楽、美術、演劇、伝統芸能などを通じた文化事業Shiga U Arteが加わりました。今年入学・進学してこられた皆さん方も、そうした社会とのつながりの輪の中に入って、学生の目線で、社会とのかかわりを考え、行動するよう、期待しています。

 滋賀大学の理念は、「地域に根差し、グローバルな視野を持って社会で活躍する人材を育成する」ことです。滋賀の地を支える国立大学としての滋賀大学では、地域の自治体や団体、企業との連携がいま発展の一途をたどっています。例えば、地方銀行などの金融機関や仏壇事業協同組合や中小企業の連合体との協定もあれば、社会人の学び直しや自治体職員の研修のような取り組みもあります。社会にある様々なシーズが勉学や研究の対象であると同時に、学習や研究の成果を地域に還元し、地域社会の発展に貢献することは、大学の使命でもあります。

 他方で、グローバル化の視点も極めて重要です。いまや我々の生活の一コマ一コマが世界と直結しています。日本にいても、日常的に世界の様々な地域の食べ物を口にすることができます。世界のどんな地域のニュースも家にいながら見ることができ、You TubeやTwitterなどを通じて、どこへでも発信することができます。「日本に居る、滋賀に居る」ことが「地球に居る」ということと同義語になっています。大津にしても彦根にしても、外国人観光客と出会わない日はないでしょう。駅やお城に行くと、知らない言葉が飛び交っている状況さえあります。「グローバル」ということが特に日常とは異なる大それたことではなくなっているのです。それゆえ、皆さんの行動範囲も必然的にグローバルになる可能性を持っています。そしてみなさんが活躍する範囲も日本から世界に広がっています。皆さんが卒業・修了したのちに世界で活躍する日も遠くありません。

 こうした状況の中で、滋賀大学では、世界の共通言語である英語を日常的に学ぶことができる英語学習e-learningのシステムを無償で全員に提供しています。経済学部では日本人の先生たちによる英語による専門科目の授業も始まりました。交換留学や長期の私費留学への助成制度や国際共同研究、国際会議助成も始めました。つまり大学がグローバル化を進めているのです。

 しかし、グローバル化は、単に外国語の使用や外国人との交流を意味するものではありません。グローバル化は同時に、世界の中の様々な場所にいるそれぞれの人間を尊重することをも意味しています。いま世界の様々な状況を見ていると、そうした人間への尊重が崩れかけているように思えてなりません。「平和な国・日本」の日常は、実は世界の日常と同じではありません。ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロさんが述べているように、「私たちは今日、部族間の憎しみがますます大きくなり、共同体が分裂して集団が敵対する時代に生きています。」シリア難民やロヒンギャ迫害、過激派テロ、ボコハラムの残忍な行動、米国における銃の乱射殺傷、北の核実験。これらのニュースは、我々の日常がむしろ非日常ではないかとさえ思わせます。そこでは人と人が憎しみを以て対峙している姿が浮かびます。人間の尊厳はどこに行ってしまったのでしょうか。

 皆さんには、これからの滋賀大学での勉強や研究の中で、そうした世界環境の中にあることを忘れないでいてほしいのです。国籍、人種、宗教・信条、地位などの違いを超えて、尊厳を基盤とする人間関係がこの広くて狭い世界を形成し、我々一人一人がその世界の一員であり、互いに尊重し尊敬しあう存在であること、これこそがグローバルの本質です。そこでは、互いの違いを敵視したり、ののしりあうのではなくて、違いを個性として認めあい、弱者へのまなざしを忘れず、また隣人に寄り添うことが、人間としての行動なのです。

 実は皆さんが入学した滋賀大学(Shiga University)の英語名SHIGA Uには、そのことがイニシアルとして入っているのです。SはSincere(誠実)、HはHumanistic(人間性)、IはIntelligent(叡智)、GはGenerous(寛容)、そしてUniversityのUはUnion(団結)でもあります。皆さん一人一人が、誠実で、人間性にあふれ、叡智をもって行動し、他者や弱者に対して寛容であり、みんなで一緒に団結して平和で安寧な世界Universeを作り上げていくところ、それが滋賀大学です。

 皆さん、ご入学おめでとう。きらきら輝く滋賀大学で、皆さん自身が、きらきらと光り輝くことを期待します。

 

平成30年4月4日

滋賀大学学長 位田隆一