桜の花もほころんできた今日の良き日に、このように厳かかつ盛大に平成29年度滋賀大学卒業証書・学位記及び大学院学位記並びに専攻科修了証書授与式を挙行できますことは、滋賀大学にとって、この上ない喜びであります。お忙しいところをご臨席賜っている来賓の方々、誠にありがとうございます。また、これまでこれらの一人一人の学生を支えてこられた保護者やご家族、ご友人、関係の方々、その力強いご支援とご助力に敬意を表しますと共に、厚く御礼申し上げ、お祝い申し上げます。

 教育学部238名及び経済学部529名の卒業生の皆さん、教育学研究科52名及び経済学研究科25名の修了生の皆さん並びに特別支援教育専攻科10名の修了生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。今日に至るまで、日々努力し、自らを大きく作り上げてきた皆さんに、心よりお祝い申し上げます。

 あなた方は、明治維新から150年になる2018年という一つの節目の時に大学を出ることになります。幕末から明治にかけての新しい日本を作る時代に、滋賀大学のキャンパスがある彦根の藩主井伊直弼大老が大きな役割を果たしたことが思い出されます。井伊直弼は、一般には安政の大獄のゆえに、悪いイメージが強いのですが、あの幕末の日本という国が合理的な意思決定の機能をほとんど失っているときに、開国の方針を打ち出したのは、極めて大きな決断であったというべきでしょう。その後の歴史が攘夷から開国に転換したのを見ると井伊直弼に先見の明があったと評価することができます。ここで私が皆さんに伝えたいのは、井伊直弼の大局を見た果敢な決断です。私利私欲ではなく、その当時の日本の置かれた状況を冷静に判断し、大老という立場にあって、将軍にも同僚や大名に相談することもままならず、彦根の寺の僧にその苦悩を語る以外、たった一人で決断したその勇気と判断力に、私は敬服します。桜田門外で散ることも覚悟のうえだったように思われます。

 あなた方は、これからの人生の中で、そうした場面に置かれることがきっとあります。それが国の一大事でなくとも、あなた方や家族の人生にとっての決断の時期が来るでしょう。その時には、様々な要素を考慮したうえで、理性的な判断を下し、いったん決した後は、いかに困難な道であろうと進んでいかなければなりません。その時にこそ、皆さんがこの滋賀大学で学び、考え、議論し、積み上げてきた知識と能力、感性が発揮されるのです。

 滋賀大学もいま変わり始めています。きらきら輝き始めています。あなた方が滋賀大学で過ごす最後の年に、いま日本が最も必要としているデータサイエンス学部ができました。これは日本では初めての学部です。これからの社会をSociety 5.0とか、新しい産業時代の到来を第4次産業革命Industry 4.0という呼び方をします。そこでは特にビッグデータ、人工知能AI、ロボット、IoTが社会の発展の中心的な柱となります。とりわけビッグデータは、ほかの三つのものが機能する基盤です。データサイエンスは、コンピューターを使った情報学と、そこからデータの持つ価値の創造に至る統計学を融合した新しい学問です。データの価値を知るためには、それぞれの分野における社会的意味を知っていなければなりません。それには社会の仕組みを勉強する人文社会系の知識も必要になります。それゆえ、データサイエンスは文系と理系の知識と能力を融合した、いわゆる文理融合の学問なのです。

 ここでデータサイエンスの話をしているのは、学部の説明ではありません。現代社会は、あらゆる現象や問題が、単なる一つの学問分野の知識や能力だけでは対処できない時代であることを示しているのです。この時代にあなた方に求められるのは、滋賀大学で習得した経済学や教育学をベースにして、様々な未知の課題に挑戦していくことです。未知の課題に挑戦する冒険心であり、様々な困難を乗り越える強い意志です。新しい扉を開く好奇心です。

 しかし、あなた方の知識と能力と意思を以てしても、いつでも成功するわけではありません。ノーベル医学賞を受賞された山中伸弥博士は、あるところでこのように言っています。

 「皆さんも、いろんな事にトライ、いろんな事をチャレンジしてもらいたい。そしていっぱい失敗をしてもらいたい。10回挑戦して、9回失敗をして、1回やっと成功するくらいの感じで、これから色んなことが起こると思うから、9回失敗しないと1回の成功は手に入らない。」

 山中先生は皆さんに失敗しろと言っているわけではなく、それくらい失敗しても、その先に成功があると信じて挑戦することだ、といっているのです。思い返してみてください。大学は、あなた方に単に知識のみを教えていた訳ではありません。講義で勉強したことは、知識のほんの一部です。皆さんが講義を理解しようとして考えたこと、ゼミを通じて議論したことには正解のない問題が溢れていたことと思います。その一つ一つがあなた方の能力を養い拡げていったのです。皆さんの一人一人にこの現代の社会の課題を発見し、正解のない課題に挑戦して、それぞれが一つの解を見つけだし、実行する能力がこの大学時代に培われているのです。だからこそ、皆さんには、深い知識と広い能力と強い意志が備わっています。大きな自信をもって荒海に乗り出してください。

 さて、経済学部を卒業または経済学研究科を修了される皆さんに考えておいていただきたいことがあります。滋賀は近江商人の地です。近江商人が「三方よし」、つまり「売り手よし、買い手よし、世間よし」の考え方を持っていた、ということはよく知られています。私はさらに、もう一つ、「将来によし」を加えてほしいと思います。皆さんが、様々なチャレンジと失敗を経て成功に至るとき、その成果が将来の世代にとってどのような意味を持つか、を常に考えてほしいのです。「環境」の問題が良い例です。これまで私たちは自分の生活を豊かで便利なものにするために科学技術を発展させてきましたが、予想しなかったことに、現在では「かけがいのない地球」宇宙船地球号の遭難といわれるほどに地球環境の危機を迎えています。私たちの行動はそれぞれが三方よしであったにもかかわらず、その結果が危機を呼んでいる。それは「将来によし」の考え方が欠けていたからです。これが「将来世代への衡平」の理論です。それは長期的な視野を持つことであり、同時に現在と将来への社会的責任を担うことでもあります。あなた方がこれから進む道には、今の利益を重視し、将来のことは無視して行われる活動もあることでしょう。それには勇気をもって、押し戻してください。そして将来に正しい方向を探ってください。

 教育学部と教育学研究科、専攻科を卒業、修了される方々は、その多くが学校の先生になられます。みなさんは、こどもたちに夢を描かせる仕事です。幼稚園、小学校、中学校、特別支援学校、それぞれの子どもが個性を持っています。その個性を伸ばし、将来の夢を育み、実現していく素地を作るのを手伝ってやってください。子どもたちはそれぞれに夢を描き、あこがれを抱き、実現しようとします.。羽生選手のようにオリンピックに出て金メダルを取りたい、藤井聡太さんのように将棋に強くなりたい、山中先生のようにノーベル賞を取りたい。今は夢でも、それを実現できるように子どもたちを後押ししてやってください。勇気を与えてやってください。

 同時に、いま学校はさまざまな困難な課題を抱えています。教師も互いに後押しが必要です。お互いに心を大切にしてサポートしあいながら、その課題を果敢に解決することが、子どもたちの夢を育てることにつながります。

 また、教師にならないで、就職する方たちもいると思います。皆さんが教育学部で学んできたことは、単に先生になるための勉強ではありません。教師にならなくても、滋賀大学で受けた教育は、皆さんが夢を育てるためのものでもあったはずです。あなた方自身が教師でない道を選んだ時、それぞれの夢を描いたのだと思います。その夢に向かって邁進してください。

 この式辞の最後に、「平和」について一言、私の願いを述べたいと思います。

 私はこの2年間、学長を務めると同時に、あるところで「多様性の世界における平和的共生の方策」という研究のリーダーをしていました。そこで得た結論は、平和とは、単に国と国の間に戦争がないことだけではなく、それぞれの国の中にいる一人一人の穏やかで幸福な生活が確保できなければ、真の意味の平和ではないということでした。そこで中心的な指標となるのは、「人間の尊厳」つまり、それぞれの人が互いに一人の人間として尊重されることでした。このことは、1945年、戦火の冷めやらぬ中でユネスコ憲章が謳い上げた、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」ということと同じであることに気づきます。戦争は、それぞれの人が心の中で相手を人として尊重しないことから生まれるのです。皆さんも、自分の心に平和の砦を築き、お互いに一人の同じ人間として尊重しあってください。そして、皆さん一人一人が将来の永遠の平和を築くかけがえのない人となることを期待します。

 本日は本当におめでとうございます。改めて、皆さんを祝福いたします。

 

平成30年3月23日

国立大学法人滋賀大学学長 位田隆一