新年の挨拶をする位田学長

 新年おめでとうございます。

 みなさま、健やかに一年をはじめられたでしょうか。

 第3期中期計画期間の2年目もあと3か月となりました。滋賀大学は刻々と発展しています。中期計画に示されたものは順調に達成されつつあり、さらに新しい展開も積み重ねられてきています。滋賀大学はきらきら輝き始めているのです。

 

 世界を見渡せば、2017年は大きな激動の時代でした。いろいろな意味で、ある種の転換期のようにも見えます。米国のトランプ大統領就任に始まる昨年一年は、英国のEU脱退表明や気候変動パリ協定からのアメリカの離脱、各地で起こるテロ、北朝鮮のミサイル・核実験なども相次ぎ、これまでの価値観や国の在り方が問い直される結果となりました。テロに始まり、核に終わる一年であったといってもよいでしょう。2017年を表す文字が「北」であるとされたことは、日本のみならず世界の安全保障にとって不幸な状況が到来していることを示しています。安定した平和な世界は遠のいたかのように見えます。ノーベル文学賞を受けたカズオ・イシグロ氏が受賞挨拶の中で指摘しているように、「私たちは今日、部族間の憎しみがますます大きくなり、共同体が分裂して集団が敵対する時代に生きています。」この時代に、我々すべての人類が平和的に共生(peaceful co-living)していくために、今まで以上に省察し、議論し、道を探っていかねばなりません。

 その中で、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のノーベル賞受賞は、我々に大きな喜びと希望を与えるものでした。我々一人一人の努力と行動の大切さを改めて思い起こさせてくれました。

 また、国連では世界共通の新しい目標が動き始めています。持続可能な発展目標(SDGs:Sustainable Development Goals)です。これは、国連が2015年の総会で、世界中のどの国も、また誰もが持続可能な発展を遂げることのできるよう、17のゴールと169のターゲットを設定したものです。そこでは、それまでの15年間行われてきたミレニアム開発目標(MDGs:Millenium Development Goals)の成果を踏まえて、途上国のみでなく、先進国も含めた世界のそれぞれの国の発展と同時に、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。いまの我々の時代に不可欠な「弱者へのまなざし」を忘れない社会の実現を目指しているのです。

 

 日本では、政治が民主的成熟度を疑わせるようなことが相次ぎました。森友・加計問題、政権を担う力のない野党勢力、希望から絶望へ急変した総選挙、憲法改正議論など、選挙民たる我々の自覚と判断が問われる年でもありました。さらに、無資格審査、新幹線台車トラブルなど、わが国のモノづくりの神話の凋落の兆しが見えています。その中で、東北大震災後の復興の進展は、様々な課題を抱えつつも、大きなエネルギーを感じさせるものです。20年以上前に経験した阪神・淡路大震災からの復興に続いて、人間の強固な意思と日々に培われた底力を感じさせます。

 

 国立大学を取りまく状況は厳しいままです。そのうえ、少子高齢化に伴う大学経営の課題がクローズアップされてきましたし、最近では、教員養成系大学・学部の在り方について、再考を迫られる状況が到来しています。国立大学における人文社会系が重視されていない状況も依然変わっていないように見えます。その中で、滋賀大学は、科学技術の発展の中の人文社会科学の重要性を前面に出して研究・教育する道に進んでいます。それが、データサイエンス学部の創設を機に始まった「文理融合型大学」の意味です。

 我々は、大学ランキングの横行に流されないようにしなければなりません。滋賀大学は大規模な総合大学ではなく、また工学や医学・生命科学系の学部を要する大学でもありません。ランキングそのものは意味のないことではありませんが、その目的は研究・教育の質の向上です。滋賀大学のように、教育学部と経済学部の長い伝統の上に立ちつつデータサイエンスのような最先端の科学をも擁する小規模地方国立大学は、その個性を発揮しながら発展することこそが、質の高い研究・教育の成果を生み出すことに繋がります。

 運営費交付金の抑制は続きます。大学の経営における新しい方向が求められている状況に変わりはありません。それゆえ、外部資金の獲得の必要性はこれまで以上に不可欠です。

 他方で国の全体的な政策、とくに経済産業政策とつながる様々な改革は大学にも影響しています。その中で、政策形成や施策の決定の上で、産業界の代表者を含む有識者会議などの見解の影響は極めて大きいものがあります。有識者会議というやり方の是非は問われなければなりませんが、国がそれにより政策の形成や実行を進める以上、大学もそれに対応して考えねばならなりません。その意味で、有識者会議などの意見よりも一歩先んじて策を採る必要があります。私は学長に就任する際に「攻めの姿勢」をとるべきことを強調し、また昨年の6月に発表した「滋賀大学イノベーション構想―きらきら輝く滋賀大学へー」でも提唱しましたが、今年度もイノベーションの意欲的展開が必要です。さらに、その「滋賀大学イノベーション構想」も必要に応じて改善と修正を加え、より大きなイノベーションを進める覚悟が必要となります。

 

 滋賀大学は2017年に新しい時代に入り、輝き始めました。確かに、財政状況の厳しいことは変化がありません。「滋賀大学イノベーション構想」では、前段で、大学を取りまく状況の厳しさと、それに対応した滋賀大学の覚悟を述べています。その厳しい状況は、半年後の今も大きな変化はありません。いな、むしろこの一年の文部科学省の置かれた状況は、昨年よりもきびしい環境を招来しています。しかし、その中で第3期中期計画に示された組織改革は着実に進展しています。教員組織と教育組織の分離、いわゆる教・教分離が実行され、教育に関する限り学部間の壁はなくなったと言えます。また、教育・学生支援機構と研究推進機構の二つの新しい機構が作られました。これらは滋賀大学全体をカバーする機構で、今後これらの機構の下で教育研究の新しい形が形成されて行きます。
 さらにデータサイエンス学部の創設をきっかけに、本学全体が社会から大きな注目を浴び始めています。昨年度にデータサイエンス学部創設の準備段階としてデータサイエンス教育研究センターが設置されて以来、すでに滋賀大学又はデータサイエンス学部は40近い連携協定や共同研究のネットワークを構築してきています。それは、わが国におけるこの分野の新しさ、ビッグデータ時代を迎えた社会のニーズ、そして日本初の学部に結集した優秀なスタッフのゆえであることはもちろんですが、同時に、大学が社会に対してアピールする努力を重ねた結果でもあります。データサイエンス学部のこうした例は、大学の存在と能力を社会に知らせる努力の重要さをも我々に示しています。

 しかし、滋賀大学はデータサイエンス学部のみではありません。教育・経済両学部もデータサイエンス学部に匹敵するようなイノベーションを興すことが必須になっています。それだけのポテンシャルを両学部は有しています。両学部には、これまでの伝統にのっとりつつも、現代の社会の状況に対応した変革が必要です。

 

 昨年の年頭所感で私は5つの柱を述べました。「文理融合」、「グローバル化」、「研究する大学」、「社会の中の大学」、「行動力・機動力のある大学」です。それぞれの柱はすでに動き出しています。そして、さらに今年は、より長期的な視野で新しい方向性を構築していきます。
 まず、滋賀大学の10年後を見通した戦略を策定するために、本学の将来を担うべき中堅の教員からなる戦略会議を設置します。学部の代表ではなく、本学の一教員として、滋賀大学のこれからを構想していただきます。次に、イノベーション構想で提示したダウンサイジングの方針に合わせた教育・経済両学部における具体的な体制への構想を得て、新しい学部体制を形成する準備を始めます。同時に、第3期中期計画に示された目標と計画を一層進展させます。その際、前倒しで達成できるものは始める必要があります。第2期に計画の加速が求められたことを考え合わせると、全体が順調に進んでいることから、加速することも考えておく必要があるでしょう。

 第三に、データサイエンス研究科修士課程の新設に向けての準備を進めます。本年3月末には文部科学省に設置申請をいたします。通常であれば学部完成時に修士課程を設置するのが慣例ですが、それを2年前倒しして、平成31年度から修士課程、さらに平成33年度には博士課程を設置します。このように設置を急ぐのは、我が国の発展に不可欠な分野で、様々なレベルでの人材育成への社会の要請が大きいからであり、とりわけ、企業等のニーズに応えようとするものだからです。博士課程まで完成すれば、学部から大学院までの一貫した人材育成が可能になります。昨年春の学部創設を第1段階とすれば、修士課程の設置は第2段階、そして博士課程は第3段階にあたります。

 これと同時に、今年は教育学部及び経済学部も飛躍する年にしなければなりません。教育学部・研究科は、昨年春に教職大学院を設置し、この春にはさらに小学校教員課程の専攻の部分的再編成及び博士課程における兵庫教育大学を中核機関とする連合大学院への加入を進めます。しかし、今後とも、これらに留まらず、新しい再編成が必ず必要になると考えられます。具体的には教職大学院の拡充と修士課程の再編成、加えて、教員数の減少に伴うカリキュラムの改訂も日程に上せなくてはなりません。そのペースは教育学部が考えている予定よりも早くなる可能性も否めません。

 経済学部・研究科は、データサイエンス学部の創設に伴い行った改組の効果の検証を始める必要があります。新しい制度の下で入学してきた一回生が期待通りの勉学に勤しむことができているのか、また、今後入学してくる学生たちも含めて、想定通りのカリキュラムを履修し、学習成果を上げるか、綿密なフォローが欠かせません。加えて、データサイエンス学部とのコラボレーションも進展させ、多様性を持つカリキュラム構成にさらなる改善を加えるよう検討することになります。他方で経済学部におけるグローバル化の進展もより一層進めることが期待されます。英語による専門科目の授業も予想を上回る状況です。学生が求めているものと合致したと言えるでしょう。今後は大学としてさらに積極的な海外留学への挑戦の支援を強化する方策を考えることになります。

 

 大学の重点戦略領域は、データサイエンス教育・研究とグローバル化です。データサイエンス学部は、すでに述べたように研究科設置へ邁進すると同時に、他大学と企業からそれぞれトップクラスの教員を迎え、陣容を充実させます。そうした展開の中で、わが国初の学部の2年目の入学試験のさらなる成功を見守りたいと思います。また、これまで以上に企業や自治体との連携を拡大し強化して、社会へのアピールをさらに展開していきます。

 グローバル化は、学生、教職員全員がインターネットによる英語自習システムの導入により全学の英語力向上が可能になり、また前述の経済学部における英語による専門科目の授業提供によって、世界の共通語としての英語を軸とした環境も整いつつあります。そうした学内のグローバル環境整備とともに、国際的な連携も拡充していきます。すでに昨年にアイルランドでも伝統あるコーク大学及びフランス・ブルターニュ地方のレンヌ第一大学との連携に向けて動きを始めました。いずれも大規模でハイレベルの国立総合大学ですが、滋賀大学が擁する教員及び学生のレベルは遜色ありません。両大学の学長とそれぞれ会談した結果、研究者の交流や共同研究、そして学生の派遣と受入れの可能性などを検討することになっています。これらの大学が最も関心を抱いたのはデータサイエンス学部ですが、経済・経営系の学部や大学院もあり、また芸術系も含めた総合大学であるため、教育学部の様々な専門分野にも対応した連携候補です。今後はこれらの大学以外にも新たなパートナー大学を作っていきます。その基盤となる国際センターには昨年に国際戦略委員会を新たに設置し、学長の下で国際戦略を考えつつグローバル化の先頭に立つ機関として活動を強化していきます。もちろんそのためには学内の留学生対応環境も必要であり、厳しい財政環境ですが、可能な限りの方策を考えていきます。

 

 滋賀大学は、さらに新しい展開の可能性を探っています。

 まず、他大学との連携です。これまでから滋賀医科大学や県立大学、長浜バイオ大学等の近隣大学との連携を図ってきていますし、さらに環びわ湖大学・地域コンソーシアムを通じた県内諸大学との協力を展開してきました。今後は、県外の国公私立大学との連携も視野に入れる必要があります。文部科学省もそれを奨励しています。すでにデータサイエンス学部は数理・データサイエンス教育強化拠点として、近隣府県の国立大学と連携を持っています。これからさらに私立大学との協働の可能性も探っていきます。

 また、滋賀大学の持つ様々な人的資源をアピールして新しい大学の役割の開拓にも着手します。その一つは文化事業です。文化・芸術関係の分野のそれぞれの教員が研究の一環で文化の創造や発展に貢献していることは明らかです。そこで、手始めにアイルランド文学研究と音楽研究教育の邂逅のかたちで、「狂言と音楽の夕べ」を催します。こうした潜在的な人的資源の掘り起こしによって、これまで滋賀大学になかったものを創造することも考えていきたいと思います。

 滋賀大学のイノベーションは、「滋賀大学イノベーション構想」の内容ですべてではありません。今後とも新しい施策の考案と実施を進めていきます。この「構想」に記した長期的な戦略を検討する戦略チームは、このたび学長の下に滋賀大学を将来リードしていくべき中堅の教員からなる「滋賀大学さいこう会議SURe(シュア)」を立ち上げました。「さいこう」は「再興」、「最高」、「再考」等の様々な意味を含む言葉で、滋賀大学の将来について、自由な発想の下にその意義や存在、方向性、施策などを検討する役割を果たします。「いま」にとらわれない、「未来」思考の滋賀大学を考えていく柱ができたことになります。いうまでもなく、直近及び短・中期的な発展は現在の役員や部局執行部により進められますが、それにとどまることなく、より長期的な方向性も策定しつつ大学の運営、教育、研究を進めていくことが不可欠であると考えています。

 

 滋賀大学は今きらきら輝き始めています。そこで勉強したい、そこで研究したい、そこで働きたい滋賀大学を作り上げることを常に目標としつつ、本年も気持ちを新たにしてことを進めていく所存です。所感を閉じるにあたって、教職員、学生の皆さんにはどうか健康に一年を過ごしてほしいと願います。
 
 平成30年1月4日

国立大学法人滋賀大学学長 位田隆一