I.はじめに:現状と新たな進路に向けて

 滋賀大学は、第3中期に入り、これまでの滋賀大学から脱皮して、新しい大学の形を作っていく必要がある。私が学長就任にあたり表明した「きらきら輝く滋賀大学」という構想では、これまでの改革(reform)を超えて、革新(innovation)、つまりこれまでの滋賀大学を新しいものにしていく、との意識がまず重要である。「イノベーション構想」と名付ける理由がここにある。またこの点こそが私を学長に選んだ学長選考会議の求めるところであると考える。

 学長就任にあたって説明した「きらきら輝く滋賀大学」は、「地域に根ざし、グローバルな視野をもつ」との大学の理念において変わるところはない。データサイエンス学部(以下「DS学部」という。)が誕生して、開学以来の新学部でかつ理系の要素を持つ学部が誕生した中で、これを一つの起爆剤として、大学の運営、研究、教育それぞれについて新しい積極的な態勢で臨む必要がある。

 他方で、国立大学法人、とりわけ滋賀大学をとりまく一般的及び財政的状況は、より厳しさを増しこそすれ、緩和の方向が見られない。特に運営費交付金の削減は直接に大学財政に影響し、その結果、教職員の定年退職者の後は不補充を原則とするに至っている。この状況は第3中期期間を通じて予想せざるを得ないどころか、第4中期においても引き続き継続することが想定できる。その結果、個人に配分される研究費も、大学によっては一人当たり15万円程度にまで引き下げられたり、中には個人研究費を配分しない方針をとっているところも出てきたところである。滋賀大学はこれまで個人あたり30万円を配分してきたが、やむを得ず今年度から5%減で各部局に配分することとした。

 文部科学省の説明では、運営費交付金はこれまで逓減傾向にあったが、機能強化補助金や改革強化補助金等を含めれば、大学に配分する経費は今年度から若干の上昇に向かっているとする。さらに、研究費については、経常的な配分から科学研究費補助金のような外部の競争的資金の獲得を奨励し、その金額も少しずつであるが漸増傾向にあるとしている。しかし、文部科学省の計算には人事院勧告による給与等の引き上げ率は含まれておらず、その結果財政力は実質的にマイナス傾向が続く。そのため、人件費の負担増は全体として研究費を筆頭とする物件費の割合減に陥ることは言うまでもない。

 以上のように、国立大学法人全体及び滋賀大学自身の財政状況は、このままで手をこまねいていれば、第3中期および第4中期を通じて明るい題材を見いだせない。

 他方で、滋賀大学にとってはさらに不利な状況が重なっている。それは、社会の側が「大学は社会に貢献しているか?」を問うようになってきたからである。これは、経済至上主義的政策の下での大学の社会への貢献の要請である。それゆえ、社会の役に立つ大学が求められている。とりわけ「国民の税金を使う国立大学」に対しては、特に生産に直接結びつかない人文社会科学系や教育系が攻撃の矢面に立つことになった。人文社会科学系は、これまでもしばしば揶揄されてきたように、直接の生産に結びつかず、具体的に目に見える形での社会への還元や説明が不足しており、その結果、タコつぼ型や趣味の世界の研究とまで言われるほどである。また、教員養成系は、現代の問題への対応が求められる。すなわち、まず第1にわが国が少子化傾向にあることから、全体の教員数も減らさざるを得ない状況が目に見えること、そして第2に、昨今の学校運営における諸問題、とりわけ教育内容や方法の高度化への対応といじめ等の学校経営上に抱える課題解決の必要がある。そのため、一昨年には教員養成系学部・大学院や人文社会科学系学部・大学院の組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう求める通知が出され、これによって教育学部と経済学部を要する滋賀大学はまともに激震を受けた。この問題については佐和隆光前学長が強く批判され、また私も昨年の入学式で述べたところであり、ここでは繰り返さない。

 問題は、すでに学長選考の機会に述べたように、これまで大学はあまりにも社会との関係をおざなりにしてきたように思われることである。とくに目に見える生産活動とは距離を置く人文・社会系は、研究成果が必ずしも社会の抱える課題と結びついてはいなかった。こうした大学の姿勢が、いま問われている。大学は、文部科学省に対しても、そして社会に対しても、われわれが社会にとって不可欠の知的活動と人材育成を行っていることをもっとアピールしていかなくてはならない。手をこまねいていては、滋賀大学は崩壊の一途をたどるといっても過言ではない。それゆえ、この逆境の時期にこそ、積極的に打って出るイノベーションが不可欠なのである。それはもはや既存のものの「改革」を超える「革新innovation」でなければならない。

 幸い本学は、わが国初のデータサイエンス学部の新設により、様々な企業や自治体、研究機関との連携や共同研究の枠組みを構築し、寄付金収入も増加したため、やや財政状況を持ち直している。しかし、この状況は永遠ではない。日本初の学部が恒久的にフロントランナーの役割を果たすためには、適切な投資や整備、そして増強を要する。この間に、教育・経済両学部においてもこれまでの取り組みをもう一度考え直し、革新を推進することが求められる。それには、基本的条件である財政状況に見合った人員と機構による研究・教育を進展させることに他ならない。それは単に機構改革や制度の刷新ではなく、教職員はもとより学生も含む全構成員の意識の革新が重要なのである。

 現在の状況の根本的原因は、滋賀大学の教育カリキュラムとそれに対応する人員配置が、法人化以降根本的に状況の変化、とりわけ財政状況に対応していないことにあると考えられる。大まかにいえば、教育学部においてはおよそ120名の体制で構築されていた教育カリキュラムを現在では約80名で行おうとしているし、経済学部においてはおよそ100名で構築されていたものを約70名で行おうとしている。その根本的理由は、財政状況が元の人員の確保を許さなくなったからである。現状では、従前のカリキュラムやシステムを全的に動かしていくのに、単純計算でおよそ一人当たり1.5倍の負担を負っていることになる。この状態では必然的に研究時間が削られ、各々の教員が、教育と並んで本来の業務である研究に支障をきたす惧れがある。滋賀大学がこれから発展していくためには、研究時間と研究環境を充実していくことが不可欠である。このことは教育を削減することを意味していない。ここで、研究時間を増加させるためには教育時間及び学内行政時間を削らざるを得ないことは明らかである。そこで求められるのは、教育の時間的量ではなく、質的保障及び質的向上である。大学においては、教育は研究によって支えられている。研究なくして教育はありえないといってよい。

 いま滋賀大学が採るべきは、財政状況の裏付けのある人員配置とそれに対応したカリキュラムの編成であり、将来の状況の変化に的確に対応しうる余裕を持った体制である。そのためには第3中期のみでなく、第4中期並びに第5中期をも見通すことが不可欠である。法人化後の10年間で計10%の運営費交付金の削減、さらにそれに続く現在は毎年0,8%ずつの削減とそれを機能強化経費として実績に基づいて再配分する方式が採られている。また後者の削減と返還が現状のまま続くことは保障されていない。こうした状況に対して第3期においては定年退職した教職員については、不本意ながら、不補充の方針を採っている。しかしこの方針を続ける限りは実人員が減り続けることはもちろんのこと、これまで維持してきたカリキュラムも有効性が逓減していくことになる。これによって最も被害を受けるのは他ならぬ学生であることを肝に銘じておかなければならない。このままでは、非常勤講師等により講義を続けることはできても、個々の学生の希望する科目のゼミや論文指導を担当する教員がいなくなり、滋賀大学に入ってきた学生が入学当初に持っていた希望を叶えることができなくなる。それはひいては滋賀大学を希望する学生が減ることを意味する。

 この状況を、打開するためには、第3期のみならず第4期までを通じた財政状況に見合った教員体制とカリキュラム編成が必要となる。滋賀大学のイノベーションの基礎は、教職員数における一定のダウンサイジングを計画して、そこから将来の滋賀大学の新しい展開を可能にするような余裕のある体制を構築することである。その中心は、教育学部及び経済学部の教員数の再編成である。このままの運営費交付金の継続的逓減及び定年退職者の推移を考えれば、第3中期中に、教育学部においては55名程度、経済学部においては45名程度の教員数を想定したカリキュラムと体制を策定する必要がある。さらに第5期には一層のダウンサイジングも予想される。しかし、それに伴って教員数に余裕が出てくることになり、現状のように補充策に難渋することはある程度回避できると考えられる。さらに、このダウンサイジングにより余裕が生まれれば、大学自身の新規または強化の戦略や計画も可能になり、教育の質の向上につながる。現在は、この余裕が全く取れないどころか、現状維持さえ困難な状況であり、外的な要因や学内の自発的な計画に対しても対応が極めて難しい。これを打破することが滋賀大学にとっては喫緊の課題と考えるべきである。

 DS学部は、滋賀大学にとって新学部というのみならず、社会のニーズに合致し、また政策的にも不可欠な分野の学部であり、当分の間はDSの重要性は極めて大きい。滋賀大学としてはその発展戦略として、DS学部の伸長は不可欠である。したがって、DS学部については、完成年度までには教員数を少なくとも25名、さらにその後は30名程度に増強することを目標とする。このための当面の手だては文部科学省に対する増加要求によるが、かかる要求の充足が容易でないことが考えられるから、いずれにしても前述の既存両学部のダウンサイジングにより戦略的に実現することが肝要である。

 このDS学部の増強は、平成31年度の大学院DS研究科設置を目指すことと連動する。DS学部が2年間の前倒しで大学院の設置を目指す理由が那辺にあるのか。DS学部は現時点では「日本初」であるが、来年度からは他大学にもDS学部と同様の学部が登場する。加えて、すでに旧帝大系総合大学にはDS系の大学院も本年度から誕生している。その中でDS学部が抜きんでて発展するには、常に先手を打った展開を行わなければ、ひと時の夢に終わりかねない。また、社会のニーズからしても、学部卒業のレベルにとどまっていては不十分であり、企業や官公庁の現場でデータを収集・加工・解析し価値発見・創造に至る過程を率いることはできない。そこで、DS研究科を2年後には発足させる必要がある。その時点では本学からの卒業生は未だ出ていないが、実際に現在企業等でデータを扱っている社員たちのスキルアップと理論武装化のためにDS大学院がその受け皿となろうし、他大学の関連学部の卒業生がレベルアップのために大学院を目指すことが考えられる。それには4年間時を待つ必要はないどころか、早急にそうした可能性を設けなければならない。確かに他大学にも情報系やデータ系の大学院は存在するし、向後数年の間にそうした大学院は増えるであろう、しかし、滋賀大学DS学部の強みはそのスタッフの厚みにある。現在のところ日本全国を見渡しても我がDS学部ほど教授陣が充実しているところはない。特に若い将来性の高い教員層は充実している。

 更にDS大学院には修士課程の上に博士課程を設け、わが国のDS分野のリーダーとなるべき人材を育成する。諸外国ではすでにDSのPhDクラスの人材を多く輩出しており、わが国のこの分野の遅れは顕著である、そこで、わが国が世界に伍していくためには、DSの学部および修士課程にとどまらず、博士課程も設置して、わが国のDS分野での遅れを取戻し、発展につなげるリーダーとして活躍する人材が不可欠である。その時に、滋賀大学こそが、学部から博士課程まで一貫した理論とPBL演習等による実践力を備えたDSリーダーを育成することができる。そこを修了したPhD取得者たちは、一方では企業や官公庁・自治体等でデータのリーダーとして活躍し、他方では大学でDSを教育する教員として将来につなぐ役割を果たす。DS分野のように理論と実際がきわめて密接につながった分野では、アカデミアと実社会の垣根はない。それゆえ、PhDを取得した者はある時には企業で実際のデータ処理・解析・価値創造のリーダーとして活躍し、またある時はアカデミアで教員として人材育成に従事する。DS分野は本質的にそうしたアカデミアと実社会の相互通貫的な分野なのであり、滋賀大学でもこうした事情に対応したコンセプトと体制で臨まなければならない。滋賀大学が通常のペースより早い修士課程、さらに博士課程の設置を目指す理由がこれである。

 では、教育学部についてはどのような未来を描くのか。第1に認識しておかなければならないことは、すでに述べた財政状況の悪化傾向は今後も継続することが予想されると同時に、さらに厳しくなる可能性も含まれている。定年退職者の後任不補充は今後も続く。さらに、教職大学院の拡充が迫られ、学部教員の員数にますます余裕がなくなる。こうした状況では、これまでのように全教科全科目の教員免許取得はますます困難になっていく。こうした状況はひとり滋賀大学教育学部だけではない。他の教員養成学部や大学においても多かれ少なかれ同様の状態になっている。

 そこで、滋賀大学教育学部が再興するには、思い切った手立てをとらなければならない。すなわち、滋賀大学のみで教員免許が取得できる範囲を国・数・理・社・英の5教科に注力し、それら以外の教科については他大学と連合した体制をとることである。これによって、確保しなければならない教員数に余裕ができることになる。先に述べたように減員した教員ポスト数とすることで、十分に5教科(国・数・理・社・英)の免許取得基準を満たすことができ、教職大学院の拡充はもちろん、将来的に企画されまたは請来する事項について、十分に対応することができる。学生たちについても、5教科(国・数・理・社・英)以外でも滋賀大学生として他大学で必要科目を受講して、免許を取得することが可能になる。他大学の学生にとってもこうした体制はメリットがある。しかしそのことは、5教科(国・数・理・社・英)以外の教員を解雇するということを意味するわけではない。将来教員になるべき学生たちにとって、主要5教科以外の音楽や美術、技術などの科目やその担当教員が学部内にいることは、教員になるべき学生たちにとって思考の幅と視野を広げることにつながり、5教科(国・数・理・社・英)以外の知識と感受性、想像力を高めるに不可欠である。また主要5教科以外の学生たちが在学することにより、それらの学生たちと5教科(国・数・理・社・英)の学生たちとの交流による相互の感性を磨くことにもつながる。

 経済学部に関しては、今後5学科を恒常的に維持し続けることは望みえない。それゆえ、今次の改組が完成するまで待つことなく、完成後の形態を今から検討を始める必要がある。これまで経済学部は6学科体制をとることにより多様な学科を専門として選ぶことができることを長所としてきた。しかしながら、その前提は教員数が十分に確保できていることであったが、現状ではそれが危うくなり、さらに完成年度を終わった後はより厳しい状況が続くであろう。こうした状況を想定すれば、二つの点で従来の5学科体制は課題を抱えていると言わざるを得ない。

 まず、最近の学界の状況を見れば、滋賀大学経済学部のように細かな専門学科を設定するのではなく、統合的な学科・学部設定が強くなり、それに対して受験生も一般的にそうした新しい試みや方向性に関心を示している。加えて、滋賀大学経済学部が十分な専任教員を置くことのできないままで多様な学科構成を謳う場合には、早晩無理が表面化し、受験生の評価が低下する恐れがある。また入学して来た学生も、期待通りの科目受講ができなくなり、不満や失望が生じることが危惧される、教育において最も重要なことは、学生の勉学意欲を高めて、自ら課題を見出しチャレンジしていくことにある。大学は受験生の意欲を十分に受けとめて、それを学問的に支援する。先に述べたような人的にも財政的にも余裕のない現状で、それが十分に可能であるかどうか、疑問なしとしない。それゆえ、前述のようなダウンサイジングすることによる、余裕こそ採るべき道と考える。

II.滋賀大学イノベーション構想の提示

 以上を前提として、以下に具体的なイノベーション構想を提示する。

目標:文理融合型大学へ

 滋賀大学は、開学以来の理系の性格の強いデータサイエンス学部が登場した。データサイエンス学部の加入によって、滋賀大学は、教育系、人文社会系、そして理系と鼎の3本足がそろったと言えよう。この3学部体制は、教育と経済を縦軸に、DSを横軸とした体制であるが、従来の大学組織のような縦割りではなく、3つの学部が相互に協働する形で研究に教育に発展することのできる体制である。それゆえ、滋賀大学は「文理融合型大学」への脱皮を目指したい。

 「知の拠点」としての大学は、それぞれの研究者の着実な研究が基盤であり、それに基づいて教育がある。その前提のもとに、これからの滋賀大学は3つのことを考えておく必要がある。第1に、研究する大学であること、第2に、現代社会に対応した新しい人材育成教育であること、そして第3に、地域からグローバルに発展する大学であること、である。

 すでに第3中期における中期目標・計画の実施とより良い方向へのかじ取りは始まっている。その中で特に重要なのは教・教分離体制と研究推進及び教育学生支援の2機構の新設である。いずれの新制度も実質的な展開はこれからであるが、これらを基に今後の滋賀大学の研究・教育活動を進めることになる。もっとも、これらは、これまでの体制や制度を統合し又は改編して構築されたものであるがゆえに、実際の機能状況を勘案して改善を加えていくべきものである。そのためには現場の教職員や学生の様々な改善提案を考慮することが望まれる。そうした直接・間接の「声」を集め、考慮する仕組みも必要である。後戻りすることではなく、新しい前進のための提案や意見を的確に把握し、取り込んでいきたい。

 幸いDS学部の設置により、滋賀大学全体への評価も上向いてきたように思われる。初めてのかつ理系の性格の強い、しかも我が国にとって喫緊の課題となる分野の人材を育成する学部増設が社会に示したインパクトは極めて大きい。それゆえにこそ、DS学部のみならず既存の教育・経済両学部もDS学部に劣らず新展開と発展を見せていくことが期待されている。おそらくそれは第3期中期目標と計画を策定した時点での予想を上回るものであると思われる。

 第3期中期目標・計画は、第2中期の最後の2年間で策定されたものである。第3中期に入って、実際にDS学部の新設のみならず、それに連動した経済学部の改組、そして教育学研究科における教職大学院の設置が実際に進み、さらに学長の交代があり、中期目標・計画を策定実施してきた基盤的状況も変遷しつつあることが見て取れる。したがって、中期目標・計画は当然に実施するべきものであるが、現実の状況に照らして、より前進した形での修正は考慮に入れられるべきものと考える。もとより現在の好状況は永続的に続くものでは必ずしもないと考えられるから、楽観的な修正や変更は慎まなければならない。肝要なのは、滋賀大学の将来に向けてより良い中期的及び長期的な戦略を考え、第3中期のみでなく、今後に続く第4中期の大学イメージを想定し、さらには第5中期をも見通して、この第3中期におけるイノベーションをもたらすことである。

 こうしたイノベーションを実現するには財政的裏付けが必要なことは言うまでもない。これには学長裁量経費を中心に、それ以外の経費も適宜合理的に整理・配分しながら充当する。その際、既存の配分方法を修正して、特に戦略的人員配置と逐次対策経費を念頭に置いて、戦略的配分を行う。その際にはEBD (evidence based distribution) の考え方に基づいた配分を心がける。

 そこで、次の5つの柱を立てて、新しいきらきら輝く滋賀大学を構築するべく、イノベーションを実現する。

1.文理融合

1)文理融合の形

 第1の柱は「文理融合」である。これまで教育と経済の2学部でしかも2キャンパスに分かれていたままでは実現が容易でなかった協働関係を、新しく発足したDS学部を軸として体制を構築して行きたい。もとより既存の2学部も、また新しいDS学部もそれぞれのディシプリンdisciplineを基礎にしているから、単に教育プログラムや研究体制を混ぜ合わせることを意味するものではない。ここでは3つの方向で文理融合を進める。

 第1に、カリキュラム編成において、データサイエンスを横軸とした文理融合のカリキュラムを編成することである。DS学部は理系の性格の強い学部であるが、現代社会はもはや理系と文系が分かれていては進歩・発展しない。現実の社会は、自らの専門分野を縦軸に、相互に理解しあい全体を俯瞰する力を横軸に、文系と理系が常にそれぞれの強みを生かしつつ融合している。これからの滋賀大学は、経済と教育をそれぞれ縦軸に、データサイエンスを横軸にして、教育・研究を進める。これを逆Π(パイ)型教育研究体制という。教育学部の学生も経済学部の学生もデータの理解と取扱いを会得し、他方でデータサイエンス学部の学生も教育や経済を中心にその他の様々な領域の基礎的知識を習得することでどの分野にでも応用のきく人材に育っていくことになる。これを、本来の専門に加えて副次的な専門知識と能力を持つΓ(ガンマ)型人材育成とよぶ。これによってそれぞれの学問領域間の垣根を低め、経済や教育など様々な分野の分かるデータサイエンティスト、データが分かりデータに基づいて教育する教員、子ども達にデータを扱うことで広がる世界の素晴らしさを教えることのできる教員、データを正しく解釈して経済分析のできるエコノミスト、データに基づく理論や実践のできるエコノミストを育てることができる。

 加えて、文理融合を実現するのに、教・教分離が有利に働く。教・教文理は現状ではこれまでの体制を急激に変化させることを回避して実質的に変更の少ない形態で出発したが、今後はその本来目的とするとおり、学系・地区と人の所属・配属の合理化をより進めていく必要があり、それに伴って専任と非専任の区別と役割の合理化にも進んでいく必要がある。

2)共同研究の推進と拡大

 第2に、各学部内及び3学部間で共同研究を広げることである。従来から滋賀大学では個人研究においては質の高いものが少なくないが、共同研究においてはやや低調である。研究としては個人研究が基礎になるのは言うまでもないが、共同研究、とくに分野横断的共同研究は、個人研究そのものの幅を広げるものであり、また自身の研究に新しい視野と視座を生む可能性が開かれる。そこで、後で述べるが、こうした共同研究を大学として支援する体制を強化していきたい。幸い、DS学部と経済学部及び教育学部は講義における共通科目を設定しているように、少なくとも教育面での協働が始まっている。これを契機に、共同研究を企画する場合には、研究計画の内容や期間に応じて一定の研究費補助を行う。

3)3学部連携による社会貢献

 第3に、3学部の連携による社会貢献を進めたい。DS学部が設置される前から学外の企業や自治体、研究機関との連携や共同研究、さらには社会連携研究センターの活動が行われてきており、地域との協働関係の基礎が築かれてきている。DS学部の開設はさらにそれを大幅に拡大しつつある。ビッグデータの時代に企業等が人材を求め、またデータの解析・価値創造のスキルを求めているのは明らかであり、その意味でDS学部は現在の社会のニーズを正面から受け止めて発展していくことになる。ところで、この1年余りの間にDS学部を核としてまとめてきた連携協定の相手先は、業種や組織、データのありようなど多様であり、ひとりDS学部のみが対応するのではなく、経済学部や教育学部が一緒になって連携協力することが望ましいと考えられる場合も見受けられる。そうした状況から判断しても、わが国ではまだビッグデータ、またはデータ自体が十分に理解・認識が行き届いていないことが見て取れる。そこで、DS学部のみでなく教育・経済の両学部もともに連携して実施に当たることが肝要である。またそれこそが、各学部ではなく大学自身と相手先との連携の形をとっていることの意義をも示している。

4)DS研究科の早期設置と大学院体制

 他所でも述べているように、DS学部の上にDS研究科を開設することは必須の事業である。これについてはすでに作業が始まり、文部科学省へも説明を始めているが、大学院自体の体制を整理して考える必要がある。DS研究科は当面は通常よりも2年前倒しで設置作業を始めているが、教育及び経済の大学院についても再編を考える必要が生じている。教育学研究科については教職大学院の拡充と博士課程の設置、経済学研究科については日本人大学院生の増強と定員確保、学生定員の再検討が俎上に上っている。これら3研究科を全体としてみれば、各単独研究科の並存を継続することが効果的であるか否か、言い換えればDS研究科の修士課程が2年前倒しで実現したと仮定して、その2年後にDS研究科博士課程の設置をも予定に上っていることから考えて、全体を一本化した総合大学院とする可能性も視野に入れて、様々な可能性を今から模索し検討することが肝要である。この点についてはまだ結論が出ているわけではないが、本学および全国の大学院の状況から見て、総合大学院化も一つの選択肢として考えておかねばならないであろう。

2.グローバル化

 グローバル化を第2の柱とする。これは滋賀大学を、グローバルな活躍のできる能力を養い発揮する大学にすることである。そのために3つの方策をとる。それらは相互に関連している。

1)海外大学との連携

 一つは海外大学との連携を拡大することである。第3期中期目標では海外大学との連携数30大学を目標としている。海外大学との連携は、大まかに研究交流と学生の派遣・受入れの2種類があるが、これまでは、滋賀大学の国際戦略が策定されないままで、前者が活発に行われることが比較的少なく、後者については留学生受入れに関して日本語を習得していることが基本的前提となっていた。しかし特に後者については日本語を前提とする限り、交換留学に関しては本学学生の留学先が限定されてしまいかねない。今後は、学長直属で国際戦略委員会を設置して、連携の方向性やあり方を見直したい。その際、前者については教員の希望を募って連携先を探ることとし、後者については、次に述べる英語授業を実施することにより、交換留学先の拡大と英語による留学生受入れの可能性の増大を探り、同時に本学学生の留学のための経費支援を、交換留学に限ることなく、強化することとする。

 具体的には、滋賀大学と同等か上のレベルの大学との連携の推進を目指す。つまり連携したい大学、留学したい大学、共同研究したい大学との連携を探り、交渉するのである。次に述べるように、これまで英語による授業がなく互恵関係が構築できなかった状況を英語による教育の基盤が実現することで解決できよう。これは同時に教員各自が培ってきた海外研究者との人的な関係を大学全体の関係へとレベルアップし、また連携関係の継続・維持にも効果を発揮することになる。

2)全学における英語教育の推進

 2つ目に、英語教育の推進である。これは英語の教育及び英語による教育の2方向で進める。第1に、ICTを用いた英語の自習システムを、附属学校教員も含めて、全学で導入する。これまでの英語教育は、一般教養科目としての英語と外国人教師やCALLシステムによる実技演習形式を中心としていたが、今後は、英語を勉強したい学生がいつでもどこででも自習できる体制を構築する。我が国の英語教育政策として英語の4技能習得が強調されており、この自習システムの導入によって、意欲があれば時と所を問わず英語に親しむことができることになる。この新しい英語教育システムの推進は、一般的に学生及び教職員の英語能力の向上を進めることとなると同時に、学生の就職においても有利に働くと考えられる。さらに本学学生の留学可能性も広げることにつながる。

3)英語による専門科目の開講

 第3に、全学で英語による専門科目の講義を増強する。現在多くの大学で、グローバル化の動きの中で英語による専門科目の開講の方向が見いだせる。本学ではこれまで経済学部のグローバル人材育成コースが中心であったが、その受入れ学生数は毎年10名程度で、しかも1年次入学直後にそれを確定するため、学年進行中に新たに意欲を見出した学生には受け皿がなかった。しかし、現実には本学学生でもこのコース以外で留学や海外での活躍を望んでいる学生は少なくない。交換留学や私費留学の傾向を見ていればそれが容易に推定できる。他方で、海外留学の経験や海外で学位を取得した教員も少なくない本学の現状から、日本人教員の英語による授業は一定程度可能であることがわかる。

 そこで、3学部において、日本人教員が英語で専門科目の授業を行い、それを習得した場合には専門科目としての単位を認める制度を設けて、2017年度より実施する。もっとも様々な事情から、当面は経済学部においてこれを実施することとし、本年度秋学期からまず5科目を開講する。来年度以降は各学期で5科目、年間を通じて10科目20単位分を提供する体制をとる。教育学部及びDS学部においてもできるだけ早い時期に実施を目指したい。

 これによって、学生が、上に述べた自習システムとともに、より英語に親しむ機会が増え、学生の英語力の向上をさらに図ることができると共に、海外連携先の拡大にも直接的につながる。これまでの連携交渉においては日本語の理解が前提となっていたが、これを本学で英語の授業の開講を大幅に拡大することによって、相手先が拡大し、しかも世界のほとんどの大学を相手先に想定することができる。このことは、共同研究の相手方や学生の受入れ・派遣先も飛躍的に増加することになり、教員や学生の希望する共同研究・留学先を選択することが可能となり、また留学生の本国も飛躍的に数とバラエティが富むことにつながる。

 滋賀大学は全国700余りの国公私立大学の中でトップクラスに位置する大学であり、英語の強化によって、学生の英語力の伸長のみでなく、本学及び本学教職員・学生のポテンシャルを海外にまでアピールすることが可能となって、研究力及び教育力双方の強化と可能性の増強が図られることになる。

4)国際的活動の支援強化

 第4は、教職員・学生の国際的活動への支援強化である。さしあたり、国際学術交流事業、例えば国際シンポジウムやワークショップを本学教員が主催する場合には、開催経費補助制度を設ける。本学で国際シンポジウムの開催を容易にすることにより、上で述べた海外及び学会での本学の存在をアピールすることにつながり、それにより海外との交流も盛んになること、したがってキャンパス全体がグローバルな環境を醸成することにつながる。

5)留学支援

 海外からの留学生の受入れについてはこれまでから国際センターを中心に、学術・国際課のサポートの下で行われているが、今後はさらに本学学生の留学支援を強化していきたい。特に1学年間以上の長期留学について、もっと強化したい。これまでは長期の留学は学生の専門分野と連携先のマッチングが十分な体制になっていないため、個人で探して留学する私費留学となってきた。上に述べたようにこの点の課題は英語による授業等の新しい措置によって少しは改善するが、長期留学にとって最大の問題である経済的条件はなかなかクリアできない。そこで、これまでの交換留学支援に加えて、私費留学、特に長期留学(9か月~1年以上)への財政的支援を検討している。

 同時に、若手研究者についても留学支援をより手厚く行いたい。特に現状でのサバティカル期の留学が従来の制度で十分であるかについて検討を加えるほか、外部資金による留学を奨励し、情報を提供して、より積極的に海外留学を計画するよう各教員に要望する。

3.「研究する大学」へ=研究体制のイノベーション

 滋賀大学はこれまでも研究レベルの高い大学であることは言うを俟たない。しかし近年は、教育の改善・強化や学内外行政実務の負担により、研究に従事する時間を十分に確保することが困難になりつつある。大学での教育は研究を基盤にしてこそ成り立ちうるのであり、本学においてもこの点を再確認し、本学にふさわしい研究強化策をとる。とりわけ、全学および各学部内の組織や業務をスリム化することによって、特に教育カリキュラムを教員定数の削減計画に合わせて再編成することを含めて、研究時間を確保するように努める。

 なお、この点で、教・教分離が、研究と教育の分離という視角から、一定の役割を果たす可能性があることにも留意する必要がある。この点は、環境総合研究センターや社会連携研究センターの研究活動における活性化や処遇も含めて再検討しておく必要がある。とりわけ環境総合研究センターは人員減の影響が大きいが、これまでの研究体制について見直して、研究のあり方や研究成果の拡大策を探る必要があろう。早期に調査、立案を進めていきたい。

 財政的には大学予算のうちの研究費の一般的な増強は望みえない。以下の諸点に集中的に研究支援を強化していきたい。

1)若手研究者支援

 まず、若手研究者のための研究環境の向上である。概ね45歳(研究歴20年程度)までの若手教員への研究費補助金を創設する。現在の個人宛て研究費配分は今後も同額で継続していくことはほとんど不可能になりつつある。研究歴の長い教員はその経験や経歴上様々な外部研究費確保の手立ての知識も豊富と思われることから、限られた財政の中で最大の研究支援効果をもたらすために、若手教員に限定して研究費補助を行う。この制度は、外部の研究資金獲得努力を前提とする。今後個人の研究費は大学財政に大きく依存するのではなく、外部の研究資金の獲得を目指す必要がある。しかし、現状の科学研究費補助金の採択率が3割を切るような難関であることも考慮して、外部資金応募と研究計画の審査を条件として、研究費の補助をこれまでよりも大きいものとして組みなおすこととする。

2)国際研究活動の支援

 第2に、教員の海外留学・海外での学会発表に対しての支援を強化する。この点も本学のグローバル化策の一環として位置づけたい。現在でもこの補助制度があるが、それを強化してより手厚い支援策を設ける。

 さらに、本学で国際学術集会を主催することを奨励し、これに対して補助を行う。形態は、学会や研究大会、シンポジウムやワークショップなど様々なものが考えられる。公開か否かは問わない。

3)共同研究の推進

 第3に、共同研究の推進である。学内の学部横断的共同研究の可能性はすでに述べたが、ここでは、学内のみならず、学外、さらには海外との共同研究を推進する。そのため共同研究に特化した研究費補助を行う。共同研究には相応の経費が必要なことから、研究計画を審査した上で、一件当たり100万円から300万円の補助を予定する。これにはこれまでのように個人研究ではなく、本学教員が研究代表者となって学内及び学外の研究者と組んで共同研究を行う場合を想定する。ここでは特に海外の研究者を加えることも重要な要素と考え、海外からの研究者が加わる場合には優先して又は補助額を上げて採択するなどの方法を採る。

4)ヴァーチャル研究センターと研究ユニットの設置

 加えて第4に、外部資金獲得者には学内にヴァーチャルな研究ユニットの設置を認める。これは実際に研究ユニットの場所や人員を手当てするものではないが、ユニットを設置することによって一定の枠組みを学内に持っていることを対外的にも対内的にも示すことになり、当該研究者はユニット長として研究計画を主催することができ、対外的な研究活動のある種の受け皿として利用することができる。ユニットを設置することで、当該研究者の業績にも、また本学の業績にもつながる。この研究ユニットは、具体的には、3学部にまたがる物質的人的措置を伴わないヴァーチャルな「三科学研究センターTri-Science Research Center(TSRC)」(仮称)を設置した上で、その中に外部資金獲得者による設置を認める形を採ることとする。ユニットの名称は当該研究者に委ねるが、それぞれの研究ユニットには年間10~15万円程度の運営経費を提供することを予定している。これにより何がしかの研究補助体制を敷くことができるであろう。間接経費の一部をこれに充当することになる。

5)外部資金導入促進

 科学研究費補助金を中心として、外部資金の獲得の支援策を勧める。特に質の高く解りやすい申請書類の作成が採択につながる事実から見て、申請書類について採択を目指した内容にわたるチェック体制をとりたい。昨年度から行っている外部委託によるチェックに加えて内部シニアおよび実績のある定年退職教員に協力を願って、申請書類を良質のものとしなければならない。昨年度の外部者による申請書類のチェックが採択における有為の差を生んだので、本年度も継続する。また、重点領域への応募や種目のより高いレベルへの応募を奨励する。そのための支援に注力したい。また、科研費に限らず、各省庁や各種財団、自治体等の提供する奨学補助金にも積極的に適切なものを見出して応募する。

4.「社会の中の大学」としての役割

1)社会との連携の形態

 滋賀大学はこれまでも地域との連携を重視して、様々な社会連携活動を行ってきた。国立大学の類型区分のうちの第1類型である地域貢献型を選択しており、地域との結びつきはこれまでから強力である。教育学部は滋賀の教員の育成が最重要な目標であるし、経済学部は滋賀並びに近畿及び中部の経済発展や繁栄に理論的かつ実践的貢献をしてきている。さらに社会連携研究センターは前身の3つのセンター時代から地域への貢献が顕著である。

 こうしたこれまでの実績を維持し拡大していくことは必須である。しかし、従来の地域との連携は大学全体が主体的に関わり又は貢献するというよりは、担当の部局や教員が、積極的ではあっても個別に関わる形になっているように思われる。あえて言えば、滋賀大学という地域における知の拠点としての存在が十分には生かし切れていないのではないか、との感がある。これまでの実績を基礎としつつ、社会・地域との連携についてそのコンセプトと体制の再構成を考える時期に来ているといってよい。

 これまでの地域・社会への貢献や連携は、研究成果を還元するとの基本的コンセプトに依っていたが、それだけではなく、今は、社会や地域の中にある生の研究シーズの積極的な掘り起こしの役割を大学が求められている時代でもある。それゆえ特に社旗連携研究センターのあり方についても検討を加える必要がある。特に全学との関係を再構築したい。また、財政状況の厳しい中で、これまでの相手方との経費負担の在り方も再検討して、相手方にも一定の負担を求める形をとる。

 新設のDS学部は、DS教育研究センターと共に、地域の企業や自治体と連携を結んで共同研究や共同事業等を行ってきており、連携が量及び質において飛躍的に拡大してきている。こうしたデータサイエンス学部を軸とした連携協定の環は、DS学部のみでなく、大学全体との連携協定の形をとるように心がけていることに注意する必要がある。このようにいずれの学部が中心になって動く場合であっても、枠組みとしては全学で対応する形をとることが重要で、この点は従来の学部主体から全学主体に発想を転換しなければならない。

2)問題解決型・提言型研究

 さらにこれまでの研究形態から、現代社会や地域の抱える問題についての解決・提言型の研究を奨励する。このための試みや計画に研究費の支援を行っていきたい。この点はすでに述べた研究する大学の柱とつながっている。社会との関係が研究の内容や形態にも発想の転換を促すものとなることを意識することが重要である。

3)滋賀大学文化事業

 本学には音楽や美術その他の芸術関係の教員が少なからず在籍する。また、現在使用できない状況であるが、登録文化財となっている講堂や陵水会館などの施設も存在する。さらに学生の芸術サークルもある。こうした人的・物的文化資源を活用して、滋賀大学文化事業を企画したい。例えば滋賀大学コンサートや滋賀大学文化フェスティバル等の企画が考えられる。

 本学は2年後には創立70周年を迎えるので、これに合わせた催しも検討したい。その中で、まだ可否を検討する余地があるが、21世紀の滋賀大学の将来に向けて、歌いやすい、親しみやすい新しい学歌を、学生から歌詞を募集するなどして全学的な参加の下で作曲することも提案してみたい。

4)広報部門の充実

 これまで滋賀大学は広報部門が手薄であった。多くの国立大学がそうであったように、自身の活動を積極的に社会に対してアピールするという姿勢が不十分であった。しかし、今は大学は社会の中の知的活動の拠点であり、社会にその研究成果の還元や教育の均霑の源である。国立大学といえども社会の理解と積極的支援なくしてはその機能を果たせない。また説明責任と透明性の観点からも、大学の活動を社会に対して公開し広報する必要がある。これによって社会のより積極的な大学支援につながる。

 それには、まず広報戦略を策定することである。戦略なくして広報は効果を現わさない。また広報の充実には学内の広報意識の醸成が不可欠で、これなくしては広報するべき内容が集積しない。さらにこれまで広報担当人員は室長(兼務)と室員のスタッフであったが、より強化していきたい。それに加えて広報経費の支弁も不可欠である。こうした広報イノベーションを、職員のみならず学生も巻き込んだ形で拡大していきたいと考える。

5.行動力・機動力のある大学

1)機動力のある組織への脱皮

 すでに「はじめに」のところで述べたように、現在の滋賀大学は全く余裕のない組織となっている。この激動の現代に対応できる組織でなければ、先般の人文社会系や教育系の再編・廃止などのような激震があるときに対応できない。大学は、財政状況を含む、さまざまな外的および内的状況に即応して行動できる機動力を持たなければならない。そうでなければ滋賀大学は早晩その勢いを衰退させることになろう。

 このため、すでに指摘したように、財政上適切な形で教育学部および経済学部の教員定員の見直しを行い、ダウンサイジングを実現し、可能な学部運営を検討しなければならない。それはカリキュラムの必要な再編成と連動する。カリキュラム・イノベーションと学部内体制イノベーションが連動しなければ達成不可能である。教育学部においては教員免許の科目の再検討を要するものであり、これまでの全課程全教科教員免許体制から選択的課程・教科体制に移行することを構想することは不可欠である。また経済学部においては、現状の5学科体制は維持不可能であり、学科数や設置科目の再編が必須である。これらの両学部の再編成は、大学院レベルでの再編成とも組み合わされなければならない。そのペースは急速である。2年後の教職大学院完成及びDS研究科設置(予定)時、4年後の経済学部改組完成時、5年後の第3中期終了・第4中期開始時等、節目が連続して到来する。からである。

 いうまでもなく、これは現員を解雇することを意味しない。上に述べた目標となる人員数を基に体制を立て直し、その最低人員を超えるポストや人員については余裕分と考えることで、様々な波に対応する力を蓄えることができ、また同時に新しいチャレンジを可能とする。現状のような受動的・防御的な態勢を積極的で攻撃的な態勢に変えていかなければならない。

 付随的に、このダウンサイジングは全学および学部レベルの組織の合理化とスリム化も求めるものである。各種委員会の統合・削減や委員数の削減など、すでに行われ始めていることをさらに徹底する必要がある。

2)戦略の策定と実施機能

 本学には即時似て対応できるような戦略策定体制がない。学長、理事、副学長の執行部は、そうした戦略を考えるには迅速性のある機動力が足りない。これまでも対応する委員会組織がなかったわけではないが、各学部の意見を代表することが想定されているため、迅速性や全学性において十分ではない。そこで、学長の下に、学部の代表ではなく滋賀大学全体の将来を見据えて戦略を考えるための、少数の教職員からなる戦略グループを置くこととし、中長期的及び短期的な戦略の策定、修正、改訂を常時に行い得るような体制をとりたい。これによって、滋賀大学は第3期以降の戦略的対応力を構築することができる。それは言うまでもなく、3学部や研究センターも含めて、全学的戦略実施機能をも確立することともつながる。それには、本部執行部と各学部・センターの間の実効的で効率的な役割分担を確立することも不可欠である。

3)事務組織・職務のイノベーション

 大学のイノベーションを行うには、大学の日常的な業務を支える事務局の役割は極めて大きい。これについても事務量の削減2割を目途に実施する必要がある。すでに事務方はこれまでからスリム化や簡素化を行ってきている。その上の削減にはあまり余裕がないであろう。事務方も人員削減せざるを得ない状況の中で、事務量の削減を目指さなくては事務方も疲弊に至る。この上に可能なのは、ペーパーレス化の推進、不必要な事務の洗い出し、ルーチン作業の簡素化などである。それを実現する手立てとして、残業の軽減を行うことにより今より限定された勤務時間で現実に行えることと行いえないことが必然的に浮かび上がってこよう。この点が事務量の削減につながるといってよい。減った勤務時間で不必要な部分が洗い出されるからである。

4)構成員間の意思疎通と情報の伝達・共有

 機動力を増強することは、学内の意見や情報が学生を含む構成員全員により共有されていなければ難しい。情報の全学共有の仕組みを今後は精緻に考えて実現していく必要がある。現状ではすべての情報が学長の下に集まる体制になっていないことが日々感じられる。

 その一環として、学長と構成員の直接対話を恒常的に設定したい。それにはまず、学長室を定期的に開放して、学長サロンとでもいうべきものを定期的に両キャンパスで行う。具体的な方法は今後詰める必要があるが、例えば毎月の定例で開催することを考えたい。教員、職員、学生のそれぞれを対象に各1~2時間程度を考えている。

 同様に、学長サロン以外にも学生の意見や意識を知り、対応を考える手段として、毎年の全学意識調査や学年ごとの抽出調査等を考え実施していきたい。その手立ての一つとして、アナログ的な方法であるが、目安箱様のものを設置して、意見を知ることを考えている。

 こうしたことの具体的実施方法は事務的な詰めをした後に、できるだけ早い時期に実施したい。

5)他大学との連携

 近隣の他大学との連携も大学の機動力を増す。具体的には、滋賀医科大学との間では、教養科目の共通化や医療データ分野でのDS学部との協働があり得よう。すでにクロスアポイントメント制により教員1名がDS学部で講義を担当する。また県立大学との連携においては、これまでから教養科目、日本語講義、英語講義等の共通化を図ってきているが、これを何らかの形で拡大することが考えられる。上に述べた経済学部における英語による専門科目講義の聴講を認める余地が考えられる。その他、県内他大学との連携については、ミシガン州立大学連合との連携の強化や各私立大学との新たな連携の可能性と形態を検討してみたい。加えて、環びわ湖コンソーシアムの利活用も視野に入れる必要がある。これら他大学との連携は相手先のニーズや能力の問題もあり、交渉により本学と相手先大学の双方が、特に学生の目から見て、有利なように働かなければならない。

III.むすびにかえて

 以上が学長としての滋賀大学イノベーション構想である。それぞれの項目の実現には、容易な部分も困難が伴う部分もある。また、すでに実現に向けて動いている事項もある。この構想は、現状を維持しようとするのみでは滋賀大学は早晩立ち行かなくなるとの認識から出発している。それゆえ、滋賀大学の形そのものにかかわる根本的なイノベーションが必要と考えた。

 ここに挙げた様々な項目については、単一のスピードや単一の施策によって実現するものではない。滋賀大学を今のままではなく、きらきら輝く滋賀大学に新しく生まれ変わらせるためには、学生を含めた全構成員の現状認識に基づく強い意欲と勇気が必要である。そしてその意欲と勇気はどの滋賀大学の構成員においてもあふれるほどに持っていることを確信している。

 

 平成29年6月20日

滋賀大学学長 位田隆一