教育学部521名及び経済学部542名の卒業生の皆さん、教育学研究科58名及び経済学研究科31名の修了生の皆さん並びに特別支援教育専攻科11名の修了生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。この日に至るまでの間、日々に精進し、自分の力を築き上げてきた皆さんに、滋賀大学を代表して心よりお祝い申し上げます。

 ここに、ご来賓の方々のご臨席のもとに、平成28年度滋賀大学卒業証書・学位記及び大学院学位記並びに専攻科修了証書授与式を行うことができますことは、私たち滋賀大学の全構成員の大きな喜びとするところです。

 これまでこれら学生たちを支えてこられたご両親、ご家族やご友人、関係の方々のご支援とご協力に対しまして、敬意を表しますとともに、衷心より御礼申し上げます。

 あなた方が滋賀大学を離れようとしている今この時に、大学は再生を目指して舵を切りました。昭和23年に国立大学として発足以来、70年近くを経て、4月から新しいデータサイエンス学部が発足し、3学部体制になります。また大学院教育学研究科には高度教職実践専攻(いわゆる教職大学院)が設置されます。彦根と大津の地に新しい花が開きます。いかなる花も、肥えた土壌と力強い苗を植え、丁寧に育てなければ咲きません。これは今日巣立ちゆく皆さんがこれまで培われてきた伝統と実力の上に、ちょうど山の上のケルンのように一つ一つ意思を積み重ねてきたからこそ、実現したものです。これは、皆さんの受け継いできた、そして受け渡していく滋賀大学の伝統なしには語れません。そうした素地を引き継いで、一層堅固なものにしてきてくれた皆さんに、ここで改めてお礼を申し上げます。

 さて、皆さん方が入学・進学以来、今日までの間に送ってきた日々を思い返してみてください。あなた方の在学中には、心躍る楽しいことやうれしいことが様々にあったことと思います。また、悲しいことや苦しいこと、悩んだことも少なくないことでしょう。そうした中で、諸君は何を考え、何をしてきたでしょうか。そしてこれからの諸君の人生において、何を行い、実現しようとしているでしょうか。

 あなた方をとりまく社会も大きな変動を来たしてきました。東北大震災や熊本地震、イスラム国と自称するイスラム過激派によるテロ攻撃、昨日もロンドンで悲劇が起こりました。大量のシリア難民、北朝鮮のミサイル実験、大衆迎合のポピュリズム、等々、あまりにも明るい未来を垣間見せるような出来事の少ないことに気がつきます。

 しかし、あなた方が踏み入ろうとしているこの社会は、これまでも様々な努力で踏みとどまり、困難を乗り越えてきました。そこにいる人たちは、明日の明るみを目指して、今を生きています。あなた方がその列に加わり、一緒に人類の安寧と人々の幸福を築き上げることを待ち望んでいます。教育学部の卒業生と教育学研究科、特別支援専攻科の修了生の皆さんは、次世代の子どもたちの教育を通じて、経済学部の卒業生と経済学研究科の修了生の皆さんには、それぞれの仕事の場において人々の繁栄と福祉の実現を通じて、明るい未来に変えていっていただきたいと願っています。

 皆さんの新しい出発のこの日に当たり、私はもう一度皆さんに「平和」というものを考えてほしいと願います。その平和は、単に国と国の間に戦争がないことだけではありません。それぞれの国の中にいる一人一人の、地球の上のいかなる片隅にも生きている一人一人の、穏やかで幸福な生活が確保できなければ、真の意味の平和ではありません。

 ユネスコ国際連合教育科学文化機関憲章の前文に

 「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。

とあります。戦争は国と国が行うものですが、その原因は、その国を動かしている人、その国に住んでいる人が作るのです。時には人間の欲望が、時には人間の恐怖心が、戦争につながります。そして戦争を止めるのも実は人間です。だからこそ、私たちは、戦争をしない、戦争をさせない、戦争を導かない、という強い意志とそして知恵が必要です。それをさらに強くしてくれるのが、大学生活を通じて作ってきた友人の輪、人の絆です。

 ユネスコ憲章はこうも言っています。

 「平和が失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない。」

 皆さんがそれぞれの学部や研究科、専攻科で学び、また研究してきたのは、単に深い知識だけではありません。講義で、ゼミで、また授業外学習で身に着けたのは、現実を見る目、問題の解決を考え抜く力、真実を見抜く能力だったはずです。社会に出れば、そうした純粋な皆さんの志を妨げようとするもの、間違った方向に導こうとするものなどに出くわすでしょう。その時に力を発揮するのが、この滋賀大学で培った能力なのです。

 さらに、戦争は価値観の違うものの間でも起こりえます。

 ユネスコ憲章には、次のような指摘もあります。

 「相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信を起こした共通の原因であり、この疑惑と不信の為に、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった。」

 これは、世界には多様な人々が生きており、それぞれが自らの価値観に基づいて生活し、共同体を築いているということです。それゆえに、それぞれの人々が違いを認めお互いに尊重しあって、信頼しあうのでなければ、戦争が起こると警告しています。ユネスコ憲章は1945年、第二次世界大戦の終了直後に作られた条約です。この時すでに、いま我々が生きている世界でいわば日常的に生じている衝突に注意を向けています。今の言い方をすれば、それは多様性の世界です。それぞれが意味を持ち、それぞれが互いにその存在と価値を認め合う世界でなければ平和ではないとユネスコは看破しているのです。

 皆さんは多様性の世界に生きているのです。

 経済学部や研究科を終えた人は、経済学や経営学、その他の分野で、教科書通りではない、異なった考え方や行動をする人たちに出あうでしょう。しかし、あなた方には学び取った理論があります。議論しあって解決を見出した自信があるはずです。さらには課外活動などで会得した連帯や協力の心構えがあります。ここまで私が申し上げてきた「戦争」という言葉を「意見対立」や「諍い」、「利害対立」と言い換えてみてください。滋賀大学での勉学とそこにおける省察とで、それ等の争いを合理的に解決する素地が形成されているのです。

 教育学部や研究科、専攻科を終えた人たちは、目の前にいる子供たちの好奇心と経験したことのないものを何でも吸収する素晴らしい力を知っているはずです。教員になる皆さんは、子どもたちに平和な未来を導く「未来教師」です。子どもたちは、規制の枠にはまらないそれぞれ異なる能力や感性を持っています。子どもたちこそ多様性の始まりです。その子供たちに素晴らしい未来の平和を語ってあげてください。

 サミュエル・ハンチントンという人が『文明の衝突』という書物を書きました。この衝撃的な題名は確かに現状の一面を言い表しているように見えます。しかし、本来文明は人々が築上げ、開花させていったもので、幸福に生きる状態をいうものです。文明そのものが衝突を生じさせるものではありません。私は文明を衝突させているのは人間だと考えています。それぞれの文明の中に生きている人びとは、その中で日々平和に暮らしています。確かにある文明圏の人が他の文明圏の人と接触することにより、異なるもの、未知のものに対する何らかの不安感や対抗心を持つかもしれません。しかし、文明の中でも「諍い」は起こり得ます。人間はそれを英知と愛情で乗り越えてきました。皆さんは、滋賀大学で過ごした日々の中で、その英知を磨き、またマザーレイク琵琶湖の愛情に育まれてきました。これから皆さんがその英知と愛情を発揮する時なのです。

 皆さん一人一人が、このマザーレイクのほとりの滋賀大学で学ばれたこと、得られた知識と能力、培った活力を、これからそれぞれの道で、存分に活かされ、活躍していかれることを願っています。

 最後にひとこと、健康に気を付けてください。

 本日は本当におめでとうございます。改めて、皆さんを祝福いたします。

 

平成29年3月24日

国立大学法人滋賀大学長

位 田 隆 一

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