2016年始あいさつ

 

 

 皆さま、明けましておめでとうございます。まずは、旧年中に皆様方より賜りました、ご厚誼とご協力に対し、本学学長として、私こと篤く御礼を申し上げる次第であります。お陰さまにて、今年度末には、教育学研究科高度教職実践専攻の新設、そしてデータサイエンス学部の新設へ向けての設置申請書を文部科学省に提出し、両者とも、平成29年度の開設を目指しております。

 

 1949年度に、彦根経済専門学校と滋賀師範学校が統合され、新制滋賀大学として発足して以来、本学は2学部体制のまま、言い換えれば、1学部も増設されることなく、70年近くを経て参りました。再来年度から、石山の教育学研究科には高度教職実践専攻が、そして彦根にはデータサイエンス学部が開設されます。これを契機に、本学が「魅力と活力に満ち溢れた」大学に生まれ変わることを、心より祈念いたしております。

 

 昨年6月8日、「教員養成系大学・大学院および人文社会系学部・大学院は、組織の廃止またはより社会的要請の高い分野への転換を図るべきである」との文部科学大臣通知が各国立大学長宛てに届きました。まるで本学を狙い撃ちするかのような、この通知は、少なくとも私にとっては「想定内」のものでありました。

 

 安倍政権内で圧倒的な影響力を有する産業競争力会議は、近年、凋落の一途を辿りつつある、我が国の産業競争力を上向かせるためには、イノベーションが必要不可欠であるという通り一遍の処方箋を書き、イノベーションの担い手を養成する国立大学の「改革」が急務である、技術革新という狭義のイノベーションとは無縁な教員養成系学部・大学院、人文社会系学部・大学院は「組織の廃止またはより社会的要請の高い領域への転換を図るべきだ」との意見が産業競争力会議の大勢を占め、それが文科大臣通知を促したものと推察されます。

 

 確かに、20世紀型技術革新のためには、人文社会知は無益ならまだしも、有害なのかも知れません。とはいえ、21世紀型技術革新の担い手は、スティーブ・ジョブスが言う通り、「人文知を備えた技術者」なのです。いささかならず飛躍した言い方になりますが、人文社会知を軽視する我が国の文教行政こそが、産業競争力を低下させた元凶なのではないでしょうか。

 

 理系重視・文系軽視の風潮は、日本の悪しき伝統に他なりません。第2次世界大戦中の昭和18年10月、高等教育機関に在学中の学生に適用されていた徴兵猶予が、文系学生と農学部農業経済学科の学生に限って解除され、学徒出陣が始まったのです。当然のことながら、高等教育機関の文系学部は空っぽ同然となり、本学の母体の一つである彦根高等商業学校は、昭和19年度から彦根高等工業学校へと転身したのです。翌20年8月に敗戦、21年度からは彦根経済専門学校として元に戻り、その3年後に新制滋賀大学経済学部となったのです。

 

 高度成長期が始まった昭和33年、岸内閣の文部大臣が「国立大学は、法文系学部を廃止して、理工系に特化すべきである」と発言したこともありました。ある有名創業者が「さほど遠くない将来、国会議員、政府省庁の幹部、企業経営者の大半を、理工系学部出身者が占めるようになるだろう」と予言したりもしました。昭和35年12月に閣議決定された「所得倍増計画」は、理工系学部の振興を謳い上げました。そのおかげで、一見、実学ならざる虚学の殿堂ごとしの京都大学では、工学部の学科新設ラッシュが続き、京大生の3人に1人が工学部生という有り様に相成った次第であります。

 

 本学の改革を進めるに当たり、私は「文理融合」と「未来志向」という二つの理念を掲げて参りました。教育者としての未来を託された教育学部の学生諸君には、教師としての知識・技能に加え、リベラルアーツ&サイエンスの浅からぬ知識を修得し、小中学校の生徒たちに、知識・技能のみならず、文科省が「真の学力」と呼ぶ思考力・創造力・表現力を身に付けさせることのできる未来志向の教師を目指してもらいたい。経済学部の学生諸君には、マクロ、ミクロ、計量経済学などのテクニカルな科目の履修に留まることなく、ミルトン・フリードマン、ケネス・ガルブレイス、ジョセフ・スティグリッツ、トマ・ピケティらの現代の古典的名著を批判的に読み解く読解力を身に付けることにより、本物のエコノミストを目指してもらいたい。

 

 思考力・読解力・表現力を鍛錬するには、日本語と英語の言語リテラシー、数学的リテラシー、データ・リテラシーの3つが必要なのです。データサイエンス学部が新設されることにより、経済学部の学生諸君には、これら3つのリテラシーをバランスよく兼ね備えた、滋賀大でしか育たない、世界で競えるエコノミストとして、「三方良し」の企業経営に、そして経世済民に尽くしてもらいたい。

 

 以上述べ進めて参りました通り、2016年は、滋賀大学の既存2学部の改革・改組の年、そして教育学研究科の新専攻設置、わが国初のデータサイエンス学部設置へ向けてのテイクオフ(離陸)の年となります。滋賀大学にとって「画期」をなす、すなわち時代を画する年を迎えるに当たり、「画期」を有意味かつ有意義にするべく、教職員の皆様方には不断のご尽力をお願いして、新年を迎えるに当たっての私のご挨拶とさせていただきます。

2016年1月4日

滋賀大学長

佐和隆光