滋賀大学では、全学プロジェクト「超スマート社会における〈文理融合〉と〈科学方法論〉についての探究」の一環として、データサイエンス教育研究センターとの共催により、「文理融合とは何か」について内省し、データサイエンス学部設置後の全学教養教育の在り方を模索することを目的として「文理融合ワークショップ」を2019年10月から5回にわたり開催しました。以下その実施報告をいたします。(経済学部 吉川英治)

第1回:2019年10月30日(水)12:50~14:20 データサイエンス棟223室

 京都大学文学研究科(哲学専修)、理化学研究所革新知能統合研究センター因果推論チームの大塚淳氏をお迎えして、「自然種の表現としての数理・因果モデル」というテーマでご講演いただきました。

 今日、数理的手法は科学において必要不可欠なものになっています。しかし、なぜ頭の中でアプリオリに導き出される数学が、現実に生じる自然現象の解明に役立つのでしょうか?18世紀にカントが提出したこの問題に、氏は次のように答えます。数学が自然科学の役に立つのは、それが当該科学において「ある」と前提とされ、その推論を支えているところの基礎的な存在物、すなわち哲学者が「自然種(natural kinds)」と呼ぶものを表現するための言語を提供するからであると。こう考えると、それぞれの分野でどのような数理的手法が使われているのか、または、使われるべきか、という問題は、各分野でどのような存在論的前提が取られているか、という問いに直結します。この一例として、氏がこれまで取り組んでこられた、因果モデルによる進化生物学の再定式化が紹介され、進化的推論を支える生物学的な自然種が、因果モデルによって表現できることが示されました。また、問いを一般化して、そもそも数理的手法によって自然種を表現することはなぜ可能なのか、その条件について一つの仮説が提案されました。

 各学部、データサイエンス教育研究センターの教員、データサイエンス研究科およびデータサイエンス学部の学生、そして外部からも、多数の参加がありました。哲学における「自然種」の概念と統計学的方法論の関わりや進化生物学との関わり等について、多様なバックグラウンドを持つ教員と学生とで活発な議論がなされました。

第2回:2019年11月15日(金)16:10~17:40 データサイエンス棟220室

 同志社大学脳科学研究科(元京都大学文学研究科)の櫻井芳雄氏をお迎えし、「心を知るために神経細胞の活動を記録する-文魂理才の脳研究」というテーマでご講演いただきました。

 「人間の心と営み」に惹かれて心理学を専攻、心とは何かという問題意識をサイエンスの手法で解明したいと、脳の研究を始めた氏は、主に文学部において、実験研究を続けてこられました。特に行動する動物から神経細胞(ニューロン)の活動を記録するという実験について、その多大な苦労や工夫、そして研究成果が紹介されました。そして、ご自身の経験から、文理融合の実践があり得るとしたら、それは和魂洋才をもじった「文魂理才」しかないのではないかということが示唆されました。

 学内3学部データサイエンス教育研究センターの教員の参加により、ご講演の後の意見交換では、神経細胞の活動記録の研究に係る質疑や文理融合の可能性についての質疑などが行われました。

第3回:2020年2月5日(水)14:40~16:10 データサイエンス棟223室

第3回ワークショップの様子

 名古屋大学大学院情報学研究科の久木田水生氏をお迎えし、「麦とツイッター:コミュニケーションの哲学と倫理」というテーマでご講演いただきました。

 コンピュータとインターネット、スマートフォンやソーシャルメディア、そして近年のビッグデータや人工知能、VRなどの発展と普及は、人々の「つながり」や「コミュニケーション」を急速かつ劇的に変化させ、「コミュニケーション革命」の真っただ中にあって、情報技術の発展が社会と個人にとってより良いものであるためにクリアするべき課題とは何か。言語哲学、技術哲学、技術倫理、デジタル・ヒューマニティーズなどを研究してきた哲学者である久木田氏は、様々な分野の専門家―計算機科学者、人工知能研究者、ロボット工学者、科学技術社会論研究者、倫理学者、法学者など―と協働して取り組んできたご自身の研究事例を紹介しつつ、様々な問いを提示されました。

 学内各学部、データサイエンス教育研究センターから参加があり、ご講演の後の意見交換では、ロボットが普及する時代の倫理問題、「草の根リテラシー」の趣旨、文理融合を実践する研究者の特徴などについての質疑が行われました。

第4回:2020年2月17日(月)15:00~16:30 データサイエンス棟223室

第4回ワークショプの様子

 国立環境研究所の林岳彦氏をお迎えし、「“因果推論駅”の奥の方を探訪しながら考える-われわれの諸研究は内的に/外的にどのような繋がりを持っているのか」というテーマでご講演いただきました。

 issue-drivenな研究において、統計的因果推論とその他の研究アプローチがどのような関係にあるのか。また統計的因果推論のアプローチの内でも、因果グラフを用いる方法論と潜在反応モデルを用いる方法論の関係はどのようなものか。こうした疑問を背景に、因果グラフを用いた方法の基礎となるバックドア基準と、潜在反応モデルについて説明され、両者のどちらもが構造的因果モデルにより記述できることが解説され、諸研究アプローチの内的または外的な繋がりをどのようなものとして捉えうるかについて、詳細が提示されました。

 学内各学部、データサイエンス教育研究センターの教員、データサイエンス研究科およびデータサイエンス学部の学生や、外部研究者の参加がありました。ご講演後の意見交換では、統計的因果推論を実際の問題に適用する際の注意点に関する質疑、方法論研究と領域研究との連携の深化を深める際の工夫に関する話題、因果推論と転移学習などの機械学習との関わり等について分野横断的に質疑がなされました。

第5回:2020年3月4日(水)13:30~15:00 士魂商才館セミナー室Ⅰ

第5回ワークショプの様子

 大阪学院大学の喜田昌樹氏をお迎えし、「経営学でのテキストマイニングの利用」というテーマでご講演いただきました。

 経営学分野でのテキストマイニングの利用について、先駆者としてのご自身の研究事例を紹介しつつ、2000年代初めから現在までの動きを紹介していただきました。また、テキストマイニング研究を行う際の3つの壁(ツールの壁、分析用データ作成の壁、分析する言葉の選択の壁)とその解決方法に関連して、文理融合の必要性や共同研究グループの作り方などを提示していただきました。

 3学部の教員、データサイエンス教育研究センターを含む全学センターの教員、そしてデータサイエンス学部の学生を含め、多数の参加者が集まり、ご講演後の意見交換では、質的研究の観点からの批判にどう対応するか、マイニングの結果が芳しくないときの対処法などが議論されました。さらに、文理融合の観点では、「リエゾン」(理論家の要望を受けとめ、データ分析ツールをカスタマイズして動かすメソドロジストにつなぐ)の育成にはどのような教育が必要かも議論されました。

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