2011年度 本学教職員が推薦する図書・映画等を紹介します。(並びは推薦者名の五十音順)
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タイトル 著者 出版社 出版年 推薦者
語感トレーニング 中村 明 岩波書店 2011 内田 耕作
電子本をバカにするなかれ 津野 海太郎 図書刊行会 2010 内田 耕作
野呂邦暢・長谷川修 往復書簡集 陸封魚の会 葺書房 1990 内田 耕作
大震災の後で人生について語るということ 橘 玲 講談社 2011 可児島 達夫
歴史主義の貧困 カール・R.ポパー 中央公論社 1961 佐和 隆光
もし高校野球の女子マネージャーが
ドラッカーの『マネジメント』を読んだら
岩崎 夏海 ダイヤモンド社 2009 辻 延浩
見仏記 いとうせいこう
みうらじゅん
中央公論社
角川文庫
1993
1997
藤田 昌宏
秘見仏記 いとうせいこう
みうらじゅん
中央公論社 1995 藤田 昌宏
人生と仕事について知っておいてほしいこと 松下 幸之助 PHP総合研究所 2009 室井 明
ロボットとは何か 人の心を映す鏡 石黒 浩 講談社 2009 和田 佳之

『ロボットとは何か 人の心を映す鏡』 石黒 浩著

和田 佳之(経済学科)

 人の親となり我が子の成長を日々観察するにつけつくづく感じるのは、構造物としての人間がいかに精巧に出来ているかという事である。単純に見える動作一つ取ってみても、完全に同じ動きを機械的に複製することは現代科学をもってしても容易であるとは限らない。本書の著者は、この余りにも複雑なメカニズムを持つ我々人間というものを、可能な限り忠実に複製する事を通じて、人間という存在の本質に迫ろうと日夜研究しているロボット工学者である。その際著者が常に意識しているのは、ただ単にロボットに人間の物理的な動きを再現させる事ではなく、人間が他者との関わり・相互関係、言い換えれば社会性を抜きにしては生きていけないという特徴をどのようにロボットに反映させるかという点にある。その結果辿り着いた著者の結論は、見かけの重要性である。外観においてもロボットを可能な限り人間に近づける事が、逆説的かもしれないが、ロボットの研究を通じて人間を知る上で不可欠だと著者はいう。
 本書は一科学者の研究成果を平易な言葉でまとめただけではなく、そもそも研究という営為が人間にとってどういう意味をもつのかという、ある意味で哲学的な問いかけを発している点にこそその真髄が見出せる。評者は密かに著者を、そのファッション上のこだわりからも”和製スティーヴ・ジョブズ”だと考えてしまうのだが、本書から著者のジョブズに勝るとも劣らない個性的な人生哲学こそを読者には読み取ってもらいたい。なお著者が評者の出身高校の一年先輩である(ただし面識はない)事は客観的事実であるので、その点割り引いて本稿を参考にしてもらいたい。

ロボットとは何か 人の心を映す鏡

所在 巻号 指定図書記号 請求記号 資料ID
本館開架     081||Ko 19||2023 011003596
教育文庫新書     081||Ko 19||2023 109000605

『大震災の後で人生について語るということ』 橘 玲著

可児島 達夫(会計情報学科)

 2011昨年3月11日に起きた東日本大震災は未曾有の大災害であり、阪神・淡路大震災を経験した者としては多くの犠牲者へ哀悼の意を込めるとともに、一日も早い復興を願う気持ちで一杯です。報道では「想定外」という言葉をよく耳にしましたが、私たちは個人、組織そして社会としてもより強固なリスク耐性を備える必要性があることに気づかされました。
 本書は、表題から察するほど必ずしもすべてにわたって震災後の日本人の生き方に関する提言が示されているわけではないですが、今世紀に入ってこれまでの日本人の生き方において少なからず依存してきた不動産、会社、円および国家という4つの神話が崩れてきている状況において、今後どのように考え、生きていくべきか経済、法律、社会、文化などさまざまな角度から検討し、一つの方向性を示してくれています。
 著者は、2002年に昨年のオリンパス不正事件でも登場した海外のプライベートバンクの悪用や不正な買収取引をフィクションであるもののリアルに描いた金融小説『マネーロンダリング』で鮮烈にデビューし、その後『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』をはじめ、表題のみならず中味もインパクトのある経済書を数多く発表しています。本書の前半の多くは過去の著作の集大成的な内容となっているので、本書を読めば著者の考え方をおおよそ理解することができます。社会人向けのビジネス書ですが、比較的平易かつ読者を引き込むような文章表現で書かれているので、専門知識のない学生でも十分に関心をもって読み、理解することができると思います。
 私たちは、多くの複雑系(さまざまな要素が相互に影響し合う)の世界に囲まれている中で、より強固なリスク耐性を備えるためには、さまざまな分野の知識を身に付けた上で適切に判断し、行動する方が望ましいことが本書を読めば理解できるでしょう。また、本書を読むことによって、学生諸君は、経済はもちろん、経営、会計、法律、社会、人文、情報といったさまざまな科学を学べる本学経済学部での学生生活が、人生においていかに貴重であるかを改めて自覚する一助になればと思います。

大震災の後で人生について語るということ

所在 巻号 指定図書記号 請求記号 資料ID
本館開架   教員推薦 338.18||Ta 13 011002801
         

『歴史主義の貧困』 カール・R.ポパー著

佐和 隆光(学長)

 本書の副題には「社会科学の方法と実践」とある。その内容を一言で要約すれば次の通りである。歴史の法則を発見したかのように装うマルクス経済学は、歴史が一回生起的であるからには、反証可能性を有しておらず、ゆえに「非科学」である。他方、新古典派やケインズの経済学(いわゆる近代経済学)は、ピースミール・エンジニアリング(部分工学)に禁欲しており、反証可能性を有しており、ゆえに「科学」である。歴史に法則があるかのように言い、その発見を見出そうとする態度のことを、ポパーは「歴史主義」と言う。
 マルクスの『資本論』は、「資本主義経済は生産関係と生産力の矛盾ゆえに崩壊する」との歴史的法則を論証したとされる。以来、100年余を経たが、その間、旧ソ連、東欧諸国、中国、ベトナム、北朝鮮、キューバなどが、資本主義を経ずして、社会主義へと一足飛びに移行した。とはいえ、資本主義経済体制がそのはらむ「矛盾」ゆえに崩壊し、社会主義経済体制へと移行した例がない。他方、20世紀末になって、旧ソ連、東欧諸国は社会主義から資本主義へと逆マルクス的体制移行を遂げた。だからと言って、マルクスの唱えた歴史的法則が反証されたわけではない。低賃金を求めての先進諸国から発展途上諸国への生産拠点の移転は、グローバルなレベルでの、生産関係と生産力の矛盾を生み出す可能性は少なしとしない。
 ポパーにより「科学」のお墨付きを押し戴いた近代経済学は、インフレを抑制するには、あるいは雇用を創出するには、いかなる財政金融政策により対処すればよいのか、自由で競争的な市場の力に委ねておけば、価格の変動により各種不均衡が解消されるプロセスを解明するという意味で、確かにピースミール・エンジニアリングと呼ばれるにふさわしい。
 とはいえ、ポパーが「科学」の条件とする反証可能性を、近代経済学が有しているのかと問われれば、私は首を傾げざるを得ない。例えば、低迷する景気を浮上させようとして、政策金利を引き下げれば、企業や個人は低金利の融資を求め、首尾よく景気は上向く。こうしたシナリオは、高度成長期には申し分なく通用した。ところが、1991年に始まる平成不況の下、金融政策の効果は無きに等しくなった。時代の変遷により、政策の有効性は心もとなく揺れ動くのだ。
 最後に、以上を踏まえた上での私見を申し述べよう。経済学者は科学コンプレックスを拭い去るべきである。経済は「科学」する対象ではなく、解釈する対象である。解釈の手法は、数学的、歴史主義的、政治経済学的手法の何であっても構わない。

歴史主義の貧困

所在 巻号 指定図書記号 請求記号 資料ID
本館開架   教員推薦 201.1||P 81 011001201
本館開架   教員推薦 201.1||P 81 011001202

『見仏記』/『秘見仏記』 いとうせいこう著/みうらじゅんイラスト

藤田 昌宏(教育学部芸術表現教育コース)

 この本はマルチクリエイターで仏像マニアのみうらじゅんが、洒脱な文章を書く”あたらしもん”好きのいとうせいこうを伴って、同行二人?温故知新?と国内外の寺社を見物ならぬ「見仏」して廻る道中記である。ペラペラとページをめくれば、二人の会話がベースの漢字少なめの文章とそれを補うヘタウマ系のイラストが組み込まれていて全体的に薄い印象を受ける。二十年後の今日の”歴女”や仏像ブーム(余談だが流行語『マイブーム』)や『ゆるキャラ』はみうらの提唱)を予見させる濃い分析がなされている事は想像しにくい。
 法隆寺の百済観音をしてみうらはそこに”ボディコン”のルーツを見、いとうは「見る者の感覚のバランスを崩す」と著す。歴史の教科書でも目にする、口から阿弥陀仏を吐き出す六波羅蜜寺の空也上人像に至っては「空也上人=ラッパー説」の見解を一にする。その珍説奇説は、仏像を彫刻として見る事に特段疑問も持たずにいた二十歳過ぎの美学生だった私にとって目から鱗、松田優作風に「ナンジャコラ〜」と叫んだかはもう忘れた。これにはやられた。美術界でも仏教界でもそんな分析はなかったし、今後もその説が支持される事はないだろう。だが、その裸の王様的な指摘は同時代を生きる私にリアリティーをもって響いた。美術教育的に言えば(誰も言わないだろうけど)、仏前でまさに『対話型鑑賞』がなされていたのである。そう言えば、彼らは仏と書いてブツと呼ぶ。それは物(オブジェ)と繋がって、単なる宗教上の私たちと無縁なイメージとしてではなく、妙に矮小化された感の強い現代とダイレクトに繋げて、ブツ本来のイメージを見出しているのである。
 謝辞でいとうはみうらの事をこうつぶやく。「おかしな方向へと話を導きながら、実はいつでも真剣に仏像を見つめていた彼の目を、私は絶対に忘れたくない。”心”があふれ過ぎているから、今こそブツを見直しませんか。」
 この本を持って、同行三人?の見仏をしてみては?

見仏記

所在 巻号 指定図書記号 請求記号 資料ID
本館開架 1 教員推薦 718||Ke 41||1 011001931
本館開架 2 仏友篇 教員推薦 718||Ke 41||2 011001932
本館開架 3 海外篇 教員推薦 718||Ke 41||3 011001933
本館開架 4 親孝行篇 教員推薦 718||Ke 41||4 011001934
本館開架 1   718||Ke 41||1 009001422
教育授業用参考図書 1 美術教育 718||I 89||1 108000183
本館開架 2 仏友篇   718||Ka 41||2 009001423
教育授業用参考図書 2 仏友篇 美術教育 718||I 89||2 108000184
本館開架 3 海外篇   718||Ke 41||3 009001424
教育授業用参考図書 3 海外篇 美術教育 718||I 89||3 108000185
本館開架 4 親孝行篇   718||Ka 41||4 009001425
教育授業参考用図書 4 親孝行篇 美術教育 718||I 89||4 108000186

秘見仏記

所在 巻号 指定図書記号 請求記号 資料ID
本館開架   教員推薦 915.6||H 57 011001940
教育開架     915.6||I 89 111000580

『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』
  岩崎夏海著

辻 延浩(教育学部体育・健康教育コース)

あらすじ

 都立程久保高校二年の川島みなみは親友・宮田夕紀の入院をきっかけに彼女に代わって野球部マネージャーになることを宣言する。だが、みなみはマネージャーがなにをするのか見当もつかない。書店でマネージャーの入門書として手にしたのが経営学の大家ドラッカーの『マネジメント』だった。
 野球部の顧客とは何か、選手へのマーケティングの実践、学校全体への社会貢献、そして高校野球へのイノベーションと、みなみのマネジメントが今始まる。(NHKアニメワールドより)

 この本では、ドラッカーの経営書『マネジメント』を読者によりわかりやすく読んでもらうために、高校野球のマネージャーが部員23名の弱小校を甲子園に連れて行くという一見あり得ないストーリーが展開されています。その節々で紹介される経営学用語に注目すると、教育学部の学生のみなさんにとっても大変意味深い言葉や考え方に出合えます。
 例えば、「顧客」についてです。「野球部の顧客」と言えば、すぐに野球を観戦してくれるお客さんを想像しますが、実は学費を払ってくれている親をはじめ、野球部の活動に携わっている『先生』や『学校』そのものも顧客であると説明しています。『高校野球連盟』や『高校野球ファン』、さらには自分たち『野球部員』も顧客であると結論づけています。これを学校教育に置き換えてみますと、『子ども』はもっとも直接的な顧客でありますが、子どもや学校を取り巻く親ならびに地域、さらには教育委員会、税金を払っている国民などが顧客になります。「モンスターペアレント」などと言って親を警戒し対峙していては教育できないことになります。
 また、主人公のみなみは野球部員に対してマーケティングを展開します。これは、まさしく教育における「子ども理解」であります。「授業は子どもを探る連続であり、真の教育は子どもを理解することからはじまる」と言われていることと重なります。
 このほかにも、「自己目標管理」や「イノベーション」といった用語が登場し、その具体についてわかりやすく説明されています。これらは教員採用試験を受ける教育学部のみなさんの心構えや準備としてとても重要です。
 アニメ化や映画化がなされ、イメージがやや偏った感がありますが、教師を目指している人や、クラブ活動でマネージャーを務めている人には是非薦めたい一冊です。

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

所在 巻号 指定図書記号 請求記号 資料ID
本館開架   教員推薦 913.6||I 96 087167757
本館開架     913.6||I 96 010000547
本館開架     913.6||I 96 087167756
教育学生選定   学生選定 913.6||I 96 110000719

『人生と仕事について知っておいてほしいこと』 松下幸之助著

室井 明(理事)

 「経営の神様」と言われる「松下幸之助」の講話録です。同氏の本は何冊かありますが、そのうち一冊でも読まれることをお薦めします。学生時代に読めば生き方のヒントになる言葉を見つけるでしょうし、社会人になり、苦労している時、悩んでいる時には、励ましてくれる一言、救われる一言を発見すると思います。
 「松下幸之助」の講話には、人生にとって何が重要か、経営にとって何が要かが語られています。若いときに読んでもピンと来ない箇所もありますが、社会に出て色んな経験をしている時に読めば、また違う目線からの糧を得ることが出来ます。
 今、「ドラッカー」が良く読まれていますが、「ドラッカーの経営論」と、「松下幸之助の経営の考え方」と、どう違うのかと思っていたら、先日、本屋の店頭で面白い本を見つけました。『もし、松下幸之助とドラッカーがマネージメントで勝負したら?』(大西宏著、実業之日本社)という本です。その前書きには、以下のような記述がありました。
 「ドラッカーの理論を身につけるためには松下幸之助の実践を学ぶのが一番で、松下幸之助の実践を応用するためにはドラッカーの理論を学ぶのが最上と思う。両社の哲学が根源で一致しているからです。ドラッカーを学習し、松下幸之助を行動すれば「マネージメント」は敵ではないと思います。」
 特に、経済学部の学生、企業に就職希望の学生は、併せてこの本も読んでみてはいかがでしょう。

人生と仕事について知っておいてほしいこと

所在 刊年 指定図書記号 請求記号 資料ID
本館開架 2010 教員推薦 159||Ma 88 011001236
教育開架 2010   159||Ma 88 111000566

『語感トレーニング』  中村明著

内田 耕作(経済学部社会システム学科)

 推薦書は辞典ではありませんが、辞典の話から始めます。辞典は引くものでしょうか読むものでしょうか。私は辞典が好きで、話題の辞典が出るとすぐに買って、隙間の時間に読んでいます。最近も、中村明さんの『日本語 語感の辞典』を手に入れました。帯には、「ことばの感触、意味・用法の微妙な違いをわかりやすく解説。学識・薀蓄・雑学の宝庫!」と書かれています。
 ここで紹介するのは、同じ著者の『語感トレーニング』の方です。出るべくして出た本という感想です。「日本語のセンスをみがく55題」と副題が示すように、Q&Aで楽しく読める仕掛けがされています。例えば、「『快調』『好調』『順調』、もっとも調子がいいのはどれでしょうか」(「はしがき」の力試しの設問)。
 「語感」とは、『日本語 語感の辞典』によれば、「ことばが指し示す概念としての中心的意味以外の、そのことばにしみついた何らかの感じや連想などの情緒的情報の総称として、会話にも文章にも使われる、やや専門的な漢語」です。なるほど!誰しも、意味が伝わればいいということではなく、自分の思っていることを正確に伝えたという思いがあるでしょう。また、相手が発することばの意味は分かるが、ちょっとことばが違うのではと違和感を抱くこともあるでしょう。私は、「〈伝えたい思い〉を〈適切なことば〉で送り届ける」(カバーの宣伝文句)ことができるようになればと切に願っています。人によっては、学識を積み、薀蓄を傾け、雑学王になることも目標になるでしょう。
 どのような目標であれ関心を持った皆さん、早速、挑戦してみて下さい。新書なのでお得な値段です。もちろん図書館で借りてもいいです。ただし、答えは書き込まないで下さい。公共物ですし、何よりも後から見る人ががっかりします。そしてさらに進んで、『日本語 語感の辞典』も見ていただければ幸いです。

語感トレーニング

所在 刊年 指定図書記号 請求記号 資料ID
本館開架 2011 教員推薦 081||I 95||1305 011001574
本館文庫新書 2011   081||I 95||1305 011000093
教育文庫新書 2011   081||I 1||1305 111000272

『電子本をバカにするなかれ』  津野海太郎著

内田 耕作(経済学部社会システム学科)

 2011年5月30日付けの日本経済新聞に、「電子書籍、米で拡大加速」という記事と共に、次のことを知らせる記事が掲載されていました。米出版社協会によると、2010年の主要出版社87社の書籍売上高(教科書・学術書を除く)は53億500万ドル(約4300億円)であった。紙の本の売上高は48億6400万円と前年比で5%減少したものの、電子書籍が前年比2.6倍の4億4100万ドルに急増した。こうした米国の動きが、早晩、日本に及ぶことは間違いないでしょう。
 私は、紙の本に囲まれ、紙の本を手に持ち、頁をめくって紙の手触りを感じ、時にはインクの匂いを嗅ぐことによって、頭の活動が刺激されると疑わないアナログ人間で、少なくとも自分が生きている間に紙の本がなくなることはないと高をくくっています。またごく最近も、「武道家兼物書き」の内田樹さんが、「紙の本でつくられる書棚空間は、自己教化のみならず他者の知的欲望も喚起することができます」と述べているのに接し(「芸術新潮」2011年6月号)、意を強くしています。
 そうは言っても、電子書籍によって紙の本が淘汰されるのか、淘汰されないとすれば紙の本と電子書籍はどう共存するのかは、私にとって大きな関心事です。また、いくら紙の本が好きだからといって、電子書籍の形でしか手に入らないものを無視することはできないとも考えています。推薦書は、こういった問題関心について考えるのに大いに役立ちました。
 推薦書には、また、学生が本を読まなくなったと言われるのは今に始まったことではなく、著者(津野)が大学を出て2年後の1965年(推薦者である内田が大学に入る3年前)、さらに遡って戦前においてもそうであったことが書かれています。本題とは直接関係ないところに引っかかって考えてみるのも、本を読む楽しみの一つといえるでしょう。推薦書に刺激を受けて、電子書籍の持つその他の問題、例えば、書店の運命、図書館の将来についても考えていただければ幸いです。

電子本をバカにするなかれ

所在 刊年 指定図書記号 請求記号 資料ID
本館開架 2010 教員推薦 020.2||Ts 81 011001573
教育開架 2010 020.2||Ts 82 111000630

『野呂邦暢・長谷川修往復書簡集』  陸封魚の会編

内田 耕作(経済学部社会システム学科)

 人は誰しも自己を正当に評価してもらいたいという気持ちを持っている。正当に評価されていないという気持ちを外に表わすとき、思わぬ軋轢を生む。誰しも経験したことがあることであろう。
 文学の世界でも、純文学の登竜門である芥川賞を巡ってスキャンダルを巻き起こした作家を何人も思い浮かべることができる。もちろん、受賞を望むがスキャンダルとは無縁に営々と作品を紡ぎ続ける作家がほとんどであろう。ここで紹介するのは、そういった後者の作家の往復書簡集である。
 本書は、昭和40年の「真赤な兎」を初め何作かで芥川賞候補となったが受賞に至らなかった長谷川修と、昭和41年の「壁の絵」で初めて芥川賞候補となり、昭和49年に「草のつるぎ」で受賞した野呂邦暢の、昭和41年から昭和53年までの往復書簡を収めたものである。昭和41年に長谷川は40歳であり、野呂は29歳であった。往復書簡は、昭和54年に長谷川が他界したことにより終了したが、野呂も追うように昭和55年に42歳で早世している。
 野呂が「草のつるぎ」で芥川賞を受賞したときの長谷川宛の書簡を見てみよう。まず、長谷川からの祝電が真っ先に届いた第1号であり、また最も印象深いものであると率直に謝意を述べ、昭和42、3年ころの「ウダツの上らない時分」からの長谷川の励ましを回想して心底から礼を述べている。そして、「小生の受賞は僥倖にすぎません」と結んでいる。今日の通信事情とは隔絶の感がある中、長谷川は下関、野呂は諫早と、共に東京の文壇とは遠く離れた地に住んでいたことが両者の交流の底流にあったが、それは取り立てて言うことではない。
 本書に関心を持っていただき、私のような下世話な関心からは解き放たれて「文学の森で出会った二つの魂」の「交感と対話」(帯による)に無垢な気持ちで接し、切磋琢磨した二人の作家との更なる「交感と対話」をしていただければと願っています。また、そこから進んで、長谷川の作品、野呂の作品の一つでも読んでいただけたら、もう言うことはありません。

野呂邦暢・長谷川修往復書簡集

所在 刊年 指定図書記号 請求記号 資料ID
本館開架 1990 教員推薦 915.6||H 36 011001612
教育開架 1990   915.6||N 96 111000264