滋賀大学長 佐和隆光

 新春、明けましておめでとうございます。

 さて、昨年末の総選挙におきまして自由民主党が圧勝し、自公の安定政権が誕生することと相成りました。安倍新政権は、日本のデフレ脱却と経済再生に向けて、財政金融政策を総動員して臨む決意を表明しています。荒療治もやむなしとの決意表明と受け取られます。

 過去20年間、日本の実質経済成長率は平均年率0.9%、名目経済成長率は平均年率でマイナス0.2%といった具合に、極度の低成長が20年余り続いております。バブル崩壊不況は1991年3月に始まったのですが、それ以降の日本経済がゼロ成長に陥った4つの理由を以下に挙げてみましょう。

 第1に、乗用車の世帯普及率が91年度に80%でほぼ頭打ちになり、飽和状態に達したことが挙げられます。重さ1トンを超える乗用車の普及は、ありとあらゆる素材産業を潤し、石油産業を潤し、損保を潤し、全国各地至る所にあるサービス・ステーションに大量の雇用を生み出しました。ことほど左様に、乗用車の普及がもたらす産業連関的波及効果は極めて大きいのです。

 1973年10月にオイルショックに襲われて以来、90年度に至るまで、平均年率4.2%という、比較的高い成長率を維持することができたのは、乗用車の順調な普及によるところが大きかったのです。実際、乗用車の世帯普及率は1970年度にはわずか30%に過ぎなかったのですが、1991年度には80%に達し、その後、2003年度には86%に達したものの、05年度には81%に落ち込み、その後は83~85%で推移しています。

 国内の乗用車の世帯普及率が飽和状態に達したからには、また、少子化のせいで世帯数は減少傾向を辿るであろうからには、さらには、若者の自動車離れという現象が顕著に認められるからには、今後は、乗用車の国内需要は、買い換え需要しか望めそうにありません。だとすれば、自動車メーカー各社は輸出または海外生産に軸足を移さざるを得なくなります。

 第2に、過去20年間に普及した新製品の大部分が、携帯電話、デジカメ、DVDプレーヤー、パソコン、デジタルテレビなどのデジタル製品に限られていたことが挙げられます。乗用車とデジカメを比べてみれば明らかなとおり、デジタル製品の普及の産業連関的波及効果はきわめて乏しいのです。自動車とデジカメのもう一つの大きな違いは、前者がまったく新しい、ゼロから出発する製品であるのに対し、後者はフィルムカメラを代替する、すなわち、フィルムカメラを市場から締め出し衰退させるという点です。フィルムカメラからデジタルカメラへの代替ということだと、差し引きゼロ、集計しての内需の増加は微々たるものに過ぎません。

 第3に、電機業界に典型的に見られるように、日本の製造業各社が、韓国、台湾、中国の猛烈な追い上げに会い、空前の苦境に追い込まれていることが挙げられます。かつて日本の製造業各社が欧米先進諸国の同業社に「追いつき追い越した」のと同じことが繰り返されているのです。機械製品の場合、リバース・エンジニアリング、すなわち製品を分解して仕組みを知り、同じものをつくることが可能なため、後発国が先発国に「追いつき追い越す」のは、いともたやすいことなのです。

 第4に、古典的な財政金融政策の有効性が失われたことが挙げられます。経済の成熟化に伴い、公共投資の内需誘発効果は著しく低下いたしました。かつて日銀の速水優総裁(当時)が吐かれた名言「水を飲みたくない馬を水場に連れて行ってどうするのですか」が意味するとおり、金融緩和の効果も、往年に比べて格段に薄れたと言わざるを得ません。

 かつて日本に追いつき追い越された欧米諸国が、いかにして一人当たりGDP競争で日本を逆転することができたのかを参考にして、古典的財政金融政策を超える、有効な定性的マクロ経済政策を案出しなければなりません。目下、安倍バブルといわれる現象、すなわち円安と株高が、猛烈な勢いを駆って進行中であります。果たして円安と株高が起爆剤となって、実体経済をも盛り上げる効果を発揮し得るのか否か、予断を許しません。

 最後になりましたが、2013年が皆様方一人ひとり、そして滋賀大学にとって幸多き年になりますことを祈念して、年始に当たっての、私のご挨拶とさせていただきます。

2013年1月7日
滋賀大学長
佐和隆光