日本人が内向き志向になったと言われる。その意味するところは、海外に留学する学生の数が減ったこと、そして海外勤務を志願する会社員や公務員の数が減ったことのようだ。後者はともかく、前者については、かなりの誤解に基づく議論がなされている。1998年度(97年9月から98年6月にかけての学校年度、以下同様)まで、米国への留学生数において、日本はアジアのトップランナーであり続けた。ところが、99年度にはインドに、2001年度には中国に、02年度には韓国に、そして09年度には台湾に追い越された。日本以外のアジア諸国からの米国留学生数が漸増するのに対し、日本からの米国留学生は1998年度の4万7千人をピークにして、その後は漸減傾向をたどり、2010年度には2万5千人弱まで減っている。同年度の中国からの留学生は12万8千人、インドからのそれは10万5千人、韓国のそれは7万2千人だから、日本からの留学生の少なさが際立つ。

 2010年3月9日、ハーバード大学のドルー・ファウスト学長は、初の訪日を前にして、読売新聞記者に次のように語った。「ハーバード大学の学部・大学院を合わせた国別留学生数で、日本は1999~2000年度に151人だったが、09~10年度には101人に減少した。同期間に、中国は227人から2倍以上の463人、韓国は183人から314人に急増した。学長は『ハーバードの力は、優秀な学生同士が刺激し合うところにある。日本の学生にも全面的に門戸を開いている』と述べ、日本人学生の増加を図りたい考えを示した。」(読売新聞2010年3月10日)

 留学生数の減少は、今の若者が「内向き」になったことを必ずしも意味しない。米国の大学院に留学しようとすれば、TOEFL(Test of English as Foreign Language)とGRE(Graduate Record Examination)の得点での競争に勝ち抜かねばならない。アジア諸国の大学生は米国留学を目指して猛勉強するから、大学院留学生数で、日本は大きく水を空けられる。学部に留学するには、GREの代わりにSAT(Scholastic Assessment Test)を受験する。

 日本の高校教育のレベルは高いので、大学生にとってのGREよりも、高校生にとってのSATの方がだんぜん易しい。そのせいもあってか、中国からの留学生の50.2%、インドからの留学生の65.1%が大学院生であるのに対し、日本のそれは21.7%に過ぎない(いずれも2010年度の数字)。かつては、米国の大学の学部に留学する日本人は稀にしかいなかった。近年では、米国支社に勤務する父親に同道し、米国の高校を経て米国の大学に進学する者、あるいは米国の大学が入学し易いことに目をつけ、高校2年生ぐらいで米国の高校に留学し、1、2年でネイティブ並みの英語を習得し、SATを受験して、程ほどの大学に進学する者も少なくない。ところが、先のハーバード大学長によると、2010年度にハーバード大の学部に入学した日本人は5名しかいなかったそうである。

 ともあれ、米国の大学の学部への留学生が増勢にあるのは、「日本の若者が内向き志向である」との仮説に反することは確かだ。大学院への留学生が激減したのは、米国留学の市場に韓国や中国が参入してきた結果、TOEFLとGREの成績の競争で勝ち抜く日本の大学生が数少なくなったからだ。

 新入生諸君をはじめ、滋賀大に学ぶ諸君にも、是非、海外の大学院への留学を目指して勉学に勤しんで欲しい。米国に限らず、2年間の海外留学により得るところは、実に大きい。将来、どんな職業に就くにせよ、海外留学により培われる国際性は、君たちの能力に新たな価値を付加することになるからだ。