滋賀大学を魅力と活力に満ち溢れる大学にすること、そして「滋賀大に入学してよかった」と学生諸君に思ってもらえる大学にすること。この二つを本学学長としての私の使命だと心得ています。2014年度は、2004年度に国立大学が法人化されて以来10年目に当たります。6年間の中期を一区切りにして、中期目標・計画を策定し、年度ごとの計画を各法人が文部科学省に提出し、計画の達成度が評価委員会により評価されます。

 2012年12月26日に安倍内閣が発足して以来、1991年度以来のゼロ成長とデフレ(物価の持続的下落)に陥った日本経済の建て直しが最優先の政策目標に掲げられ、大学に対しても経済成長への貢献が求められるようになりました。

 もともと学術・科学とは、人間の理想である真善美という3つの価値を追求する営みだったはずです。「学術・科学は経済の僕である」とする実学の思想は池田内閣の『所得倍増計画』(1960年)に初めて明記されました。安倍政権の産業競争力会議や教育再生実行会議で、再度、理工系分野の振興がうたわれ、文科省の「国立大学改革プラン」は、グローバル化の推進、イノベーションの創出を大学の課題にすえています。理工系分野の振興という盾の背面には、人文・社会科学分野から理工系分野への資源(ヒトとカネ)の移転という目論見が垣間見えます。

 本学は教育学部と経済学部という人社系2学部から成る小規模大学です。その意味で本学は、経済成長至上主義のおかげで日陰に追いやられそうな気配であります。しかし、実学志向の大学改革プランは必ず失敗する、と私は確信しています。今から50年前、所得倍増計画の華やかなりし頃、会社・官庁の幹部はもとより国会議員の大半をも、理工系学部の出身者が占めるであろうとの予見が語られていました。でも、そうした予見はものの見事に裏切られました。わが国の諸機関のうち、理系が圧倒的多数派を占めるのは国立大学協会(86国立大学の学長の集まり)ぐらいのものではないでしょうか。

 旧ソ連・中国の政府首脳の大半が理工系の出身者でした。私の知る限り、旧ソ連のミハイル・ゴルバチョフ元共産党書記長がモスクワ大学法学部卒、中国の李克強首相が北京大学法学部卒(後に経済学博士号を取得)。文系学部出身の指導者は2名を数えるにすぎません。人文・社会科学を学ぶことにより身に付く、批判的精神、論理的思考力、歴史主義的思考力、想像力、創造力などは全体主義国家の存立を脅かしかねないがゆえに、旧ソ連。中国の政権は人社系学部の卒業生を排除してきたのです。言い換えれば、民主主義国家の存立のためには人文知が欠かせません。のみならず、技術革新そして経済成長のためにも「人文知と融合した技術」が必要だ、とスティーブ・ジョブスが語っています。民主主義を堅持し、経済を成長させるためには、人文・社会知が欠かせないのです。学生諸君には、専門知にくわえ、内実に富む人文・社会知を身に付け、知的魅力に富む社会人となられることを願ってやみません。日本を「豊か」な民主主義国家であり続けさせるために。