皆さま、御卒業まことにお目でとうございます。本日、滋賀大学を卒業または修了し、本学を巣立ってゆかれる皆さま方の門出を、御来賓の皆さま方、本学の教職員、そして在学生の諸君とともに、心からお祝い申し上げます。

 本年度は、教育学部246名、大学院教育学研究科修士44名、特別支援教育専攻科11名、経済学部535名、大学院経済学研究科修士38名、博士後期課程1名の総計875名の卒業生・修了生に対し、学位・修了書を授与することができました。

 学部を卒業される諸君の大部分は、1990年から92年にかけてのお生まれでしょうね。株式、土地など資産の価格が、空前にして、恐らくは絶後と思われる水準にまで高騰した、いわゆる「バブル経済期」を迎えたのは、君たちが生まれる直前、1987年から89年にかけての3年間のことでした。ところが、1991年3月、景気は下降局面を迎え、以来、日本経済は、事実上のゼロ成長のまま、何と四半世紀近くの、長い歳月を費やして、今日に至っているのです。

 私が本学の学長に就任したのは、大方の学部卒業生の諸君が入学した年、2010年4月のことでした。多分、大方の諸君はお忘れでしょうが、私にとって初めての入学式告辞で、両学部の新入生諸君に私の願いを訴えました。まず初めに、教育学部の新入生諸君に対して、次のように言いました。

 教育学部そして教育学研究科への新入生諸君に申し上げたい。今日の日本にとっての喫緊の課題の1つは「教育の再生」です。君たちが「世のため人のため」になろうとするのなら、小中学校の教員の果たす役割は、何物にも増して重いと同時に、この国を20年来の閉塞状況から解き放つために、必要にして不可欠な役割を君たちが担うことを、肝に銘じておいて頂きたい。君たちは、それぞれ、専門の科目についての知識を習得するのみならず、「初等中等教育の在り方」の理想について友と語らい、師と論じ合い、初等中等教育の教員として、その理想を追求する心構えの持ち主になって頂くことを願いたい。およそ以上のように申し上げました。

 教育学部の卒業生諸君、君たちは4年間の学業を通じて、果たして私の願いをよろしく叶えて頂いたでしょうか。今、この場で、各自、それぞれ自問して頂きたい。さらに私は、経済学部および経済学研究科の新入生諸君に対して、次のように言いました。

 君たちが尊敬されるエコノミストになろうとするのなら、「望ましい」社会経済の設計者を目指して欲しい。19世紀後半から20世紀初頭までの四半世紀間の長きにわたり、イギリスのケンブリッジ大学の経済学教授を務めたアルフレッド・マーシャルは、教授就任記念講演で、次のように語りました。「社会的苦悩を克服するために、自らの最善の能力をすすんで捧げようとする『冷静な頭脳と温かい心情』(Cool Heads and Warm Hearts)を持つ人びとの数を1人でも多くすることが、私の念願である」と。「冷静な頭脳と温かい心情」をもつ教え子を世に送り出すことを、マーシャルは自らの使命と考えていたのです。「冷静な頭脳」とは「効率的」な社会システムを設計するための能力を意味します。そして、「温かい心情」とは「公正」な社会システムを設計するための能力を意味します。経済学部の新入生諸君には、効率と公正を両立させる社会の担い手となって頂きたい、と申し上げました。

 経済学部の卒業生諸君には、4年間の学業を通じて、アルフレッド・マーシャルと私が想いを同じくする「冷静な頭脳」と「温かい心」の持ち主になって頂いたでしょうか。今、この場で、各自、それぞれ自問して頂きたい。

 さて、学部卒業生諸君の多くが本学に在学中の2010年4月から14年3月にかけての4年間に、いくつかの大きな出来事がありました。

 1つは、2011年3月11日午後2時46分に勃発した東日本大震災です。マグニチュード9.0という震度の激しさもさることながら、間を置いて押し寄せた10~20メートルを超す高さの津波のせいで、東北地方一帯は、史上空前の大災害に見舞われたのです。加えて、福島第一原子力発電所の1号機から4号機までが、メルトダウン、炉心溶融という、取り返しのつかない大事故に見舞われたのです。

 1人当たり電力消費量を国際比較してみると、日本は、カナダ、アメリカ、韓国に次いで世界第4位。総消費量で見ると、アメリカ、中国に次ぐ第3位です。東日本大震災までは、電力多消費国である日本の消費電力の30%前後が、全部で53基ある原子力発電所によって供給されていました。2011年の夏、東京電力管内の原子力発電所はすべて停止していたのですが、幸いにも、停電という大惨事には至ることなく、何とか持ちこたえることができました。今現在は、国内の原子力発電所はすべて運転停止の状態なのですが、1度も停電を起こすことなく、無事、事態は推移しております。

 ご承知の通り、日本は化石燃料に恵まれない無資源国です。これからの日本のエネルギー供給の在り方をどうすべきなのかは、教育、公務、ビジネスなど、どのような職に就かれるにせよ、避けて通れぬ難問として、一人ひとりが受け止めざるを得ません。ひと言でいえば、再生可能エネルギーを一層普及させることにより、脱原発を成し遂げることができるのか否か、生活の利便性と快適性を損なうことなく、どこまで節電が可能なのか等々を、中長期的な視野のもとに考えて頂きたい。

 2つ目は、一昨年末の総選挙で自民党が圧勝し、3年3ヵ月ぶりに政権交代が生じたことです。安倍政権の一連の経済政策のことを、アベノミクスといいます。1991年度以来、20年余り続くゼロ成長・デフレ経済からのスムースな脱却を、アベノミクスが達成できるか否か。目下のところ予断を許さぬ状況にあります。

 確かに、株価は大幅に上昇し、円安もまた大いに進行しました。しかし、実体経済の方は、今ひとつ冴えません。2013年度の経済成長率は年率1%強を達成しそうではありますが、成長の中身を見てみると、その大半が公共投資すなわち政府の公共事業の伸びに由来しており、民間消費支出、民間企業設備投資などの民需が主導するまでには至っておりません。また、円安が進んだにもかかわらず、数量ベースでの輸出は増えず、ついに日本は貿易赤字国に転落してしまったのです。

 そんなわけで、日本経済は、ゼロ成長とデフレからなかなか抜け出せないまま、言い換えれば、アベノミクスの顕著な効果は見えぬまま、安倍政権発足以降、1年と3カ月を経たのです。

 3つ目は、中国と韓国という、日本と隣り合わせの2つの国との関係が、著しく険悪化したことです。中国とは尖閣諸島の領有権をめぐり、韓国とは竹島の領有権をめぐり、また歴史認識に関わる諸問題をめぐり、抜き差しならぬ緊張関係に陥っています。しかも、東アジアの緊張関係を解きほぐそうとするアメリカ政府と、中国・韓国への強硬路線を崩さぬ日本政府の関係もまた、ぎくしゃくするようになりました。

 4つ目は、経済の分野で、日本が中国、韓国、台湾に追い付き追い越されようとしていることです。君たちが大学生活を送った4年間、スマホやタブレットが急速な勢いを駆って普及いたしました。スマホやタブレットの基本ソフトの分野では、アメリカのアップル、グーグル、マイクロソフトが競り合っており、製品に関しては、アップル、サムスン、そして中国のメーカーが、世界の市場で熾烈な競争を繰り広げています。つい数年前までは、電気機械関連のほとんどの分野で、日本のメーカーが先頭を走っていたのですが、情報通信機器の分野では、往年の勢いをすっかり失ってしまいました。

 学術・科学研究や教育の面でも、日本は中国、韓国、台湾に追い上げられています。世界最古の日刊紙ロンドン・タイムズの別冊「タイムズ・ハイアー・エデュケ―ション」が、毎年、世界の大学のランキングを発表しています。2013三年のランキングによると、アジアに限ってのベスト50に入る大学の数を国別に比べてみると、日本11校、中国8校、韓国6校、香港6校、台湾5校と、ベスト50にランクインする日本の大学の数が意外に少ないことに驚かされます。国際的な専門誌に掲載される論文の数を見ても、日本は中国に大きく引き離されています。

 かつて日本は、第二次大戦後、欧米先進諸国に「追い付き追い越せ」のモットーを掲げてまい進し、およそ30年かけて、ハイテク製造業の分野で、その目標を達成することができました。今、日本が、東アジア諸国に追い付き追い越されようとしているのは、先進国の宿命とも言うべき、歴史的必然と見るべきなのかも知れません。

 以上、学部を卒業される諸君が本学に在学中に起きた出来事を4つ挙げましたが、それらのいずれもが、日本の近未来にたちこめる「暗雲」の予兆と言わざるを得ません。こうした事実を意図的にか見過ごして、マスメディアが喧伝する根拠なき楽観論に惑わされてはなりません。

 だからといって、悲観ばかりしていてはなりません。本日、滋賀大学をご卒業される皆さま方には、日本の近未来にたちこめる暗雲を払いのける役割を担ってもらわなければなりません。百花繚乱という言葉があります。その意味するところは「さまざまな花がいろどり美しく咲き乱れること」であります。同じように、君たち一人ひとりの小さな努力の積み重ねの結果、あたかも花が咲き乱れて風景が一変するがごとく、近未来にたちこめる暗雲を払いのけることができるのです。

 教育、公務、ビジネスなど、いずれの職場においても、努力、創意、決断、勤勉をモットーとして、暗雲を払いのけ、近い将来、青空が垣間見えるよう、日々、努めていただくことをお願いして、君たちの門出を祝う学長告辞を締めくくらせて頂きます。

 改めて申し上げます。本日は、御卒業まことにおめでとうございます。

2014年3月26日
滋賀大学長 佐和隆光